秋から冬にかけてはりんごの最盛期
りんごの季節です。
生で食べても美味しいりんごですが、この季節に味わいたいのは、アップルパイやタルトタタンといった焼き菓子……。
お隣の青森県にはかないませんが、岩手もまたりんごの産地。
そんなりんご盛りの11月上旬の岩手に、フランス菓子文化の研究をしている三久保美加さんがいらっしゃいました。
三久保さんは、フランスの製菓学校に留学していたこともあり、帰国してからも何度も現地に足を運び、フランス菓子のルーツを探る旅をしています。 中でも、タルトタタンの研究に力を入れており、東北人の私よりもりんごの品種を知っています。
今回訪れたのは、サンファームの吉田さんが育てている貴重なりんご、カルヴィル・ブランをいただくためだとのことです。
2019年は、タルトタタンが公になって120周年
三久保さんに聞いたところによると、1899年、現地の新聞のオテル・タタンでの食事風景が描かれている記事の中に「タルト・ドゥ・マドモワゼル・タタン(タタン嬢のタルト)」が紹介されていたとのこと。1899年から数えると、タルトタタンが公になって今年で120周年になります。
タルトタタン誕生の地、ラモット・ブーヴロンのオテル・タタンを訪ねたり、タタン研究家を取材している三久保さん。その中で見つけたタルトタタンのルセットのお話をしてくれました。
タタン姉妹の知人によるそのルセットには、レネット、カルヴィルというりんごの品種が書かれていたのです。
日本ではほとんど聞くことがない品種ですよね。
生食用リンゴとお菓子用のリンゴは何が違う?
先ほどのりんごの品種、レネット、カルヴィルは日本ではあまり知られていませんが、フランスではお菓子によく使われているそうです。
私たちがスーパーなどで買うりんごは、ふじや王林、ジョナゴールドといった生で食べて美味しいものですが、製菓に使うりんごは、加熱した時に持ち味を発揮するものが好まれます。
もちろん、ふじがアップルパイなどに使えないというわけではありませんが、フランスなどで現地のりんごを使ったことがあるパティシエの中には、生食用のりんごは酸味や香り、食感などに物足りなさを感じる人もいるそうです。
レネット種やカルヴィル・ブランといったりんごは、タルトタタンのように加熱する料理に適しているとのこと(実は生で食べても美味しい)。
三久保さんは、それぞれの調理方法や加工に合ったりんごを「クラフトりんご」といい、生食用のりんごと差別化しています。
タルトタタンに適したりんごとは?
昨年、三久保さんが盛岡にいらした時、ご自分で焼いたタルトタタンを持ってきてくださったのですが、その味の美味しかったこと。今でも忘れられません。
その時いただいたのは、カルヴィル・ブランと、バンクロフトを使ったタルトタタンでしたが、りんごの酸味と甘みが絶妙で、味の余韻が長く、ずっと味わっていたいほどでした。
三久保さん曰く、タルトタタンに適しているのは、加熱したときに水分が出過ぎないもので、酸味が適度にあり、煮くずれしにくく、柔らかくなりやすいもの。 カルヴィル・ブランやレネット種は、その点でとてもタルトタタンに向いているようです。
しかし、りんごの品種はまだまだたくさんあります。三久保さんは他にもいろんな品種でタルトタタンを焼き、加工適性を研究しています。
私も、これからタルトタタンを食べる時には、どんな品種を使っているのかチェックしながら食べたいと思いました。
クラフトりんごの生産者、サンファーム
岩手のりんご生産者・サンファームの吉田さんは「クラフトりんご」を含めて約80種のりんごを栽培しています。今や、サンファームのりんごは関東や関西のパティスリーでも引っ張りだこです。
品種の多さもさることながら、りんごの収穫期を見極め、パティシエと一緒に加工適性の研究にも余念が無いサンファームの吉田さん。
サンファームの圃場に行くと、いつも新しい発見があるので、パティシエや各界の料理人が視察に訪れています。
サンファームのりんごを使ったタルトタタンを求めて
「ブールドゥネージュ盛岡緑が丘店」菅原シェフのタルトタタンは、サンファームの「さんたろう」というりんごを使用しています。
この「さんたろう」は、すっきりした酸味が特徴で、加熱しても酸がしっかり残ります。
今回、菅原シェフは、2種類のタルトタタンを提供してくださいました。使っているりんごは同じ「さんたろう」ですが、焼き加減とバターの量が違います。
「さんたろうの酸味を生かしたタルトタタンを作りたい」という菅原シェフ。さんたろうに決めるまでに、いろんなりんごで試作したようです。時間をかけて丁寧に作っていることが伝わってきました。
「どちらも美味しいから、2パターン出してもいいですよね。お客さんも2種類買って食べ比べてみたくなりますよ」と三久保さん。
三久保さんの上々の反応に、菅原シェフも安堵の様子でした。
一期一会のタルトタタン
その後もタルトタタン熱は冷めやらず……。もっと食べてみたくなり、盛岡近郊の他の菓子店にも行ってきました。
シーズンを通していろんな品種のりんごが食べられる岩手。
菓子店によっても使っているりんごが違うようです。
いろんな品種でタルトタタンを焼いている三久保さんも「同じように焼いてもりんごによって焼き上がりが異なるので、実際に焼いて見なければわからない」と言います。
それもまた、タルトタタンの魅力なのかもしれません。
タルトタタンは「一期一会のお菓子」。りんごの季節は、いろんな店のいろんなタルトタタンに出会えたらいいですね。
ブール・ドゥ・ネージュ盛岡緑が丘店
岩手県盛岡市緑が丘4丁目7-30
http://www.b-neige.net/
タルトタタン八幡町本店
岩手県盛岡市八幡町13-34
https://www.tarte-tatin.jp/
はちすずめ菓子店
岩手県紫波郡紫波町日詰字郡山駅53
http://hachisuzume.com/