
ハーゲンダッツ ジャパンがこの夏始動する「JAPAN MIND」プロジェクト。
それは、単なる新フレーバーの発売に留まらない、示唆に富む取り組みです。
現代のスイーツ市場の嗜好性と、日本独自の文化への深い洞察が込められており、スイーツ業界に携わる方々にとっても、今後の商品開発やブランド戦略のヒントとなるではないでしょうか。
発表会でのマーケティング本部長 北川氏、マーケティング本部 田子氏、そして「JAPAN MIND」プロジェクトリーダーである井上氏からの説明を踏まえ、このプロジェクトがなぜ今、このテーマを掲げたのか、そしてその魅力的な商品群がどのように市場にアピールするのかを読み解いていこうと思います。
なぜ今、「JAPAN MIND」なのか?市場における「和」の進化
国内外で高まる「日本」への注目は、食の世界において顕著です。
特にスイーツ分野では、伝統的な和素材や和の技法がモダンに昇華されたものが、若年層から海外の観光客まで幅広い層に支持されています。
ハーゲンダッツ ジャパンの北川氏が「ハーゲンダッツとして初めて、こういった形でプロジェクトを組んだ」と語るように、「JAPAN MIND」はブランドにとって新たな挑戦です。

この背景には、マーケティング本部 田子氏が言及したような、いくつかの重要なトレンドがあります。
直近の大阪万博の盛り上がりやインバウンドの回復、さらには季節の催しや和菓子の進化、地域の文化を発信するコンセプトショップの成功からも分かるように、日本文化への関心は一層高まっています。

ハーゲンダッツ ジャパンは、この潮流を敏感に捉え、「アイスクリームを通して伝統的ながらも洗練された日本のよさを表現する」という明確なコンセプトを打ち出しました。
これは単に「和風フレーバー」を投入するのではなく、日本の文化や感性をハーゲンダッツならではの高品質なアイスクリームで表現するという、より深掘りしたアプローチです。
発表会での調査結果によると、消費者は「単に素材だけでなく、日本の文化やマインドに焦点を当てているハーゲンダッツのこだわりがいい」「世界的なブランドが日本でしか味わえない商品を出すのは嬉しい」「身近なアイスクリームで日本の良さを再認識できるのがいい」と、このプロジェクトに非常に高い期待を寄せていることが明らかになりました。
この顧客の声こそが、高級感と安心感を併せ持つハーゲンダッツのブランドイメージと、繊細で奥ゆかしい日本の美意識が融合することで、唯一無二の価値を生み出そうとしているこのプロジェクトの原動力となっています。これは、日本の素材や技術の持つポテンシャルを最大限に引き出し、新たな商品価値を創出する好例の一つ言えるでしょう。
さらに、本プロジェクトは、大阪万博と時期が重なることから「日本の良さを商品を通じて伝えることができないか」という発想が起点になったと北川氏が明かしました。当初から夏季にフォーカスしており、秋まで実施期間を設けることで、夏の主力商品としての売上拡大と、インバウンド顧客へのアピールも視野に入れていることがうかがえます。
現代の嗜好を捉えた3つのアプローチ:商品開発のヒント

今回の「JAPAN MIND」プロジェクトでは、3シリーズ4商品という多様なラインナップで、それぞれ異なる日本の「よさ」に焦点を当てています。これは、現代の消費者が求める「多様性」と「特別感」を見事に捉えた戦略であり、商品開発における重要な示唆を与えてくれます。
では、具体的にどのような「和の魅力」が、この夏、私たちを惹きつけるのでしょうか?
ハーゲンダッツ ジャパンが満を持して送り出す4つの新商品には、それぞれの素材やテーマに隠された奥深いストーリーと、現代の味覚トレンドを巧みに取り入れるための工夫が凝らされています。
ここからは、それぞれの商品のこだわりと、それがスイーツ業界に与えるインスピレーションを紹介していきます。
1. 夏の風物詩をハーゲンダッツ流に昇華:CREAMY GELATO『いちご練乳みるく』・『ほうじ茶きなこ』(6月24日発売)

第一弾の「CREAMY GELATO」は、2020年の登場以来、夏の定番として人気のシリーズ。
その特徴である「濃厚な味わい」「クリーミーなコク」「すっきりとした後味」は、まさに現代人が求めるアイスクリームの理想形。
ここに、日本の夏の風物詩である「かき氷の味わい」から着想を得たフレーバーを投入するのは、非常に秀逸な戦略です。

プロジェクトリーダーの井上氏によると、ハーゲンダッツは「納涼」という日本ならではの文化に着目し、「かき氷そのものではなく味わいを表現した」初の和フレーバーを開発したとのことです。
♢『いちご練乳みるく』

かき氷の定番でありながら、練乳みるくのまろやかさと、いちごの甘酸っぱさという「和」と「洋」の絶妙なバランスが、幅広い層に響くでしょう。特に「果肉入り」という点は、素材感を重視し、より本格的な味わいを求める現代のトレンドに合致しています。単体で食べると爽やかな酸味を、混ぜて食べると練乳の甘さと重なりマイルドになるという「二段階の楽しみ方」も魅力です。
♢『ほうじ茶きなこ』

近年、和カフェスイーツとして人気が定着したほうじ茶ときなこの組み合わせは、もはや「定番」と言っても過言ではありません。香ばしさとほろ苦さ、そしてきなこの優しい甘さが織りなすハーモニーは、落ち着いた大人の味わいを好む層に強くアピールします。井上氏も、焙煎度の異なる茶葉を複数使用してほうじ茶の風味を最大限に引き出し、炒り方を変えた2種類のきなこをブレンドしたと説明しており、徹底した素材へのこだわりが伺えます。
「ダブルカップ構造」によって、1カップで様々な味わいを楽しめる点も、「コスパの良さ」や「飽きのこない楽しさ」を求める現代のニーズに応えています。これは、単価を上げずに顧客満足度を高めるための有効な手段となり得ます。
2. 「究極のこだわり」を味わう:『玉露』(7月22日発売)

第二弾の『玉露』は、まさに「こだわり」というテーマを具現化した商品です。
希少価値の高い高級茶である玉露に焦点を当て、その「旨み」を最大限に引き出す製法に徹底的にこだわっています。
田子氏からは、玉露が「日除け栽培」という手間暇のかかる栽培方法で生産量が少ない希少品であること、そして「旨みが強い」という特徴が強調されました。
「茶葉そのものを粉砕した玉露パウダー」や「玉露エキスを閉じ込める」といった説明からは、素材への深い理解と、そのポテンシャルを最大限に引き出すための技術力がうかがえます。
市場には玉露を使った様々なスイーツがあるものの、チョコレートやフルーツなど他の素材との組み合わせが多い中で、ハーゲンダッツは「玉露そのものの旨味を味わえる」点に特化。

お客様の声として「旨味や新しい味わいを感じる」「飲んだ時のような後味のすっきり感」が挙げられており、濃厚でありながら後味の良い、夏向けのアイスクリームとして差別化を図っています。素材の選定から製造工程に至るまでの徹底したこだわりは、今後の高級和スイーツ開発における重要なヒントとなるでしょう。
3. 和洋折衷のモダンな魅力:クリスピーサンド『ゆずホワイトショコラ』(8月19日発売)

第三弾のクリスピーサンド『ゆずホワイトショコラ』は、海外からも注目を集める「ゆず」をフィーチャー。
爽やかなゆずとホワイトチョコレートという意外性のある組み合わせが、現代のスイーツトレンドである「和洋折衷」の魅力を存分に引き出しています。
田子氏によると、ゆずは日本人にとって馴染み深く(99%が「好き」と回答)、海外でも「Yuzu」として認知され、ココラティエやスイーツショップでも使われるほど注目度が高い素材とのことです。

クリスピーサンド特有のサクサクとした食感に、ゆずアイスクリームの風味、甘酸っぱいゆずソース、そしてゆずホワイトチョココーティングの「酸味とほろ苦さ」が加わることで、単調ではない複雑な味わいを生み出しています。
井上氏からは、アイスクリーム部分には濃縮還元ではない「ストレートのゆず果汁」を使用し、ゆず本来の風味を追求した点が説明されました。
お客様の声として「酸味と香りとホワイトチョコの甘さのバランスが良い」「本格的な美味しさ」「高級感がある」と評価されており、「新しい体験」や「洗練された味覚」を求める層に響くのではないでしょうか。
和素材の新たな可能性を引き出す組み合わせは、他のスイーツジャンルにおいても応用できるヒントに満ちています。
ハーゲンダッツが描く「日本」の未来と業界への示唆

今回の「JAPAN MIND」プロジェクトは、単なる期間限定商品の発売に留まらず、ハーゲンダッツ ジャパンが日本の市場と消費者に深く寄り添い、その変化を敏感に捉えていることを示すものです。伝統的な日本の文化や素材に光を当てつつ、現代のニーズに合わせた形で昇華させることで、新たな価値を創造しています。
このプロジェクトは、スイーツ業界全体に、「和」の表現の多様性、素材への深い探求心、そして顧客体験の最大化という重要なメッセージを送っています。
特に、メインターゲットを女性の20代~30代としながらも、インバウンドを含めた幅広い層にアプローチしようとしている点、そしてデジタルコミュニケーションを軸に、発売前から最終弾まで約3ヶ月にわたるロングランで話題を創出していく戦略は、今後のプロモーションの参考になるでしょう。
北川氏は、今回のプロジェクトが「初めてのチャレンジ」であり、その経過検証を踏まえ、「今後も同じような企画や、ブラッシュアップした形での検討をしていきたい」と語っており、日本独自の試みを積極的に推進していく意向を示しています。
今後、どのような形で「JAPAN MIND」が展開され、日本のスイーツシーンに新たな風を吹き込むのか、私自身も注目していこうと思います。
この夏を彩るハーゲンダッツの「JAPAN MIND」プロジェクト、ぜひご期待ください!