「侘び寂び」の精神を体現した茶聖、千利休
千利休。この名前を聞けば、多くの人が「茶道」を思い浮かべるのではないでしょうか? 彼は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した、日本を代表する茶人です。
茶室という特別な空間で、抹茶を点て、味わい、客をもてなす、一連の作法を指します。その中には、禅の思想や日本の美意識が深く根付いているのです。
千利休以前の茶道は、高価な茶道具や豪華な茶室を用い、権威を誇示するようなものでした。しかし、利休は、それまでの形式主義的な茶道に疑問を抱き、『侘び寂び』を追求した、質素で簡素な茶の湯を確立。
今でこそ、日本の美意識を代表する概念として根付く『侘び寂び』。質素で静寂な中に、奥深い美しさや心の豊かさを見出すことを意味します。利休は、茶室の空間、茶道具、そして作法に至るまで、この『侘び寂び』の精神を徹底的に追求しました。
茶道の世界に革命を起こし、現代に続く茶道の基礎を築いた彼の思想は、茶道だけでなく、日本の文化や芸術、そして人々の精神性、日本の美意識に大きな影響を与えました。
そして現代。六本木の地で、歳時記に基づいた和菓子の技術を継承しながらお茶のペアリングで贅沢な茶寮体験という新しい表現に挑戦する「九九九」が誕生します。
出来立ての和菓子をコース仕立てで提供するという、革新的なスタイルで、和菓子界に新たな風を吹き込む菓子司「九九九(くくく)」。
「九九九」(読み:くくく)
住所:東京都港区六本木7-5-11 カサグランデミワ2F
営業時間:
・和菓子と茶のペアリングコース:平日 15時~/18時~ 2部制(火曜は18時~のみ)
・一品揃い(和菓子と茶のミニセット):平日 21時~23時 (L.O 22時半) / 土曜 15時~23時 (L.O 22時半)
定休日:日曜日、月曜日
座席数:カウンター8席
インスタグラム:@999_kukuku
茶聖、千利休の「千」という数字から一つ少ない数字「九九九」。
その店名には、千利休への深い敬意と精神に深く感銘を受け、模倣するのではなく、利休の哲学への憧れ、また学んでいきたいという思いが込められています。
利休が侘び寂びの精神の導入や、茶室の改革、茶道具の簡素化、作法の洗練といった茶の湯を大成させたように、「九九九」では和菓子のコースで新しい試みを大成させるという気持ちで望みたいという思いも込められているとのこと。
日本の伝統文化である「和菓子」と「お茶」を通じて心をほどく菓子司「九九九」
かの昔より身分の分け隔てなく茶を楽しむ大切な文化とされてきた「茶会」。
現代では、ごく少数派が楽しむものとなっていますが、この大切な文化を皆で分かち合い、唯一無二の体験を皆様にお届けしたいと考え、空間も茶室の要素を取り入れつつも、野点のように気軽に茶を楽しめるように設計。また、店内展示の緊張感と安らぎをもたらすアートや骨董にもぜひ注目していただきたい。
その場で仕上げ、温度と質感を活かした和菓子と、全国各地から厳選した茶葉の旨みや香りを心ゆくまでご堪能いただける唯一無二のコース。
和菓子と茶のペアリングコース
目の前で和菓子職人と茶士が全てを手がけるコーススタイルで和菓子の温もり、手触り、茶の蒸される香り、全てをご堪能いただけます。
提供時間:15時~/18時~ 平日2部制(火曜は18時~のみ)
価格:19,800円 (税込・サ別)
予約サイト:www.tablecheck.com/shops/999/reserve
近年では、和菓子作り体験や茶道教室など、特別な体験を通して、和菓子文化に触れることができる場が増えてきました。
ただ、私たちが通常目にする和菓子といえば、店頭のショーケースに並んでいる姿ではないでしょうか。
「九九九」オーナー/プロデューサーの見冨右衛門氏は、和菓子職人の藤田凱斗氏と出会い、作りたての和菓子を提供してもらったときに、質感や温度感、そのテクスチャーに『出来立ての和菓子って、こんなにしっとりしてたり口どけが良かったり、和菓子ってこんなポテンシャルがあるんだ。』と驚き、ただの丸い物体から30秒で練り切りの花に変わっていく姿を目の前で見ていただきたいと思ったことから、お寿司屋さんのようにお寿司を握って提供するかのように和菓子を目の前で作って提供するコース仕立ての和菓子を考えついたのだそうです。
和菓子に合わせる飲み物といえば、まず思い浮かぶのは日本茶。そこで、多くの生産者を訪ねたところ、日本のお茶のおいしさ、大量生産でないお茶の魅力、奥深さに魅了された見冨氏。
『和菓子とお茶を極めよう。』というふうに準備期間1年以上をかけ完成。
その場で仕上げ、温度と質感を活かした和菓子と、全国各地から厳選した茶葉の旨みや香りを心ゆくまでご堪能いただける唯一無二の「九九九」の和菓子と茶のペアリングコース。
季節ごとに毎月テーマを変え、歳時記に即したテーマに作り上げていくとのことで、グランドオープンに先駆け先行試食会にお招きいただき11月のコースを体験することができました。
《装う山々から玄冬へ 霜月》 錦秋の情景を映す、儚くも美しい和菓子のフルコース
11月。山々は燃えるような赤や黄色に染まり、錦秋の絶景が広がります。 しかし、その美しさは儚く、わずか2週間ほどで葉は散り、冬枯れの景色へと移り変わります。
今回体験してきた11月「和菓子と茶のペアリングコース」は、そんな11月の自然の移ろいを、繊細な技で表現した、まさに芸術的な時間でした。
2品目・亥の子餅 羽二重 無花果 胡桃
11月のお茶事の正月、旧暦10月(現在の11月頃)に炉開きと共に食される「亥の子餅」。茶道では、11月に炉を開く「炉開き」を行います。炉を使うことで火災のリスクが高まるため、中国の五行思想で火を消す力を持つとされる亥(いのしし)の子どもである「うり坊」を模した、丸い形をしている「亥の子餅」を食べて火災を防ぐという願いが込められています。歴史ある縁起の良いお菓子です。
作り立ての和菓子をその場で召し上がっていただくことができるので、限界まで求肥を柔らかくすることができ、また日持ちということを考える必要もないので糖度も抑えられるのも魅力。
合わせるお茶は、京都宇治のお茶をベースに九九九のためだけに試行錯誤を重ねて調合した「九九九ノ合組」という名の煎茶。
「亥の子餅」の甘さがあるので、少し苦味を生かしたお茶になっています。
4品目・氷炉 炭
炭を使用したアイスに、土佐備長炭で作った炭油をかけて食べる、炭のようなアイス菓子「氷炉」。
合わせるお茶は、ミント煎茶。
炭油の香りが強いので、スッキリとミントで切る、というペアリングになっている。
5品目・柿釜羹 柿 八角
まるで宝石のような輝きを放つ、黄金色の「柿釜羹」。寒天やゼラチンを一切使わず、柿のペクチンのみで固まった柿100%で仕上げられた贅沢な逸品です。
丁寧に作られた柿釜羹は、滑らかでとろけるような舌触り。そして合わせた八角の琥珀糖を一緒に食べることで、ちょっと熟した柿のような香りに変化していく。
秋の味覚を凝縮した、芳醇な香りと、自然の恵みを感じさせる上品な甘さを楽しむことができます。
6品目・山景色 薩摩芋 鹿の子豆
銅板で金鍔のように仕上げていく、薩摩芋を使った「山景色」。
一口食べれば、外はカリッと香ばしく、中はしっとり滑らか。薩摩芋本来の甘みが、口いっぱいに広がります。
銅板で焼き上げることで、生まれる独特の食感と香ばしさ。それは、まるで秋の山の風景を思わせる、懐かしさと温かさ。
どこか素朴で、それでいて上品な味わいは、日本人の心をくすぐるのではないでしょうか。
銅板の下には、断面に菊の花のような模様が現れるのが特徴の菊炭(きくずみ) と呼ばれる、高級な炭を使用。
茶道では、風炉や炉で湯を沸かすために使われています。火持ちが良く、煙が少ないため、茶室の雰囲気を壊さないのだとか。
合わせるお茶は、栗ほうじ茶と柿の葉茶を一緒にブレンド。
7品目・利休望 柚子 林檎
胡麻を使った料理に「利休」の名前が冠されることが多いように、利休が好んだ精進料理に”胡麻”を使ったものが多く見られます。今回は、その胡麻を生地に使った黒ごまの大福「利休望」。
その装いは、まるで、桃山時代に千利休の依頼で、京都の陶工・長次郎が創始した黒く光沢のある釉薬が特徴の茶碗『黒楽茶碗』のよう。
持てないくらい柔らかい黒ゴマの大福の生地で、生クリームと季節の食材(11月はリンゴと柚子)を包んだ、まるで飲み物のような「利休望」。五感を惑わす、幻のような美味体験。このテクスチャーをぜひ味わってみてください。
合わせるお茶は、小豆ほうじ茶。
8品目・寒椿 練り切り
冬の時期に咲く椿の花を模した美しい和菓子「寒椿」。
目の前で作り上げるこの和菓子は、練り切りの中でも難易度の高い技法とされている「布巾絞り」を採用しています。
布巾絞りは、生地に独特のシワや模様をつけることで、花びらや葉脈など、よりリアルな表現を可能にする技法です。
しかし、熟練の技が必要とされます。
経験によって培われる感覚的な技術が必要で、布巾で生地を絞る際、力の入れ具合が均一でないと、綺麗な模様が出ません。
繊細な力加減や、生地の状態、布巾の種類、スピード、そして経験など、様々な要素が絡み合う、高度な技法なのです。
だからこそ、美しい模様が生まれた時の喜びはひとしおです。
白餡にもちと伊勢芋を足して作られた練り切り生地。
少しだけこの白の下にピンクを敷く「裏打ちぼかし」をすることで、まるで本当の椿が咲いてきているように表現しています。
合わせるのは、京都府宇治市で栽培されている碾茶の品種、抹茶「あさひ」。
それぞれの和菓子は、日本の四季を大切にする心、そして、自然の美しさへの畏敬の念を込めて作られています。
「九九九」が誇る和菓子の奥深さと温もり、繊細な口溶け、お茶とのペアリングで、日本の美しい秋を感じてみてくださいね。
「九九九」では、季節に即した良質な素材を用いた和菓子と茶のペアリングコースをメインに、夜には一品揃いやオリジナルの茶カクテルもご用意し、ここでしか味わえない体験をお楽しみいただけます。
ーーー オーナー/プロデューサー 見冨右衛門氏からのコメント
和菓子職人の藤田凱斗と出会い、その文化や技術に触れて、強い衝撃を受けたのを覚えております。出来立ての和菓子だけが持つ、温度や質感にただただ驚いたと同時に、ショーケースや箱に入った和菓子ではなく、職人が目の前で仕上げたものを提供したいという想いに至りました。また、和菓子に合わせるのは当然お茶という考えが多い中で、茶士とともに茶の湯を学んでその知見を高め、これまでの茶の概念が変わるような生産者との出会いを通じて、その素晴らしさも伝えていきたいという想いも強くなりました。そんな2つを組み合わせた、まだ日本の飲食シーンでは珍しい和菓子のコース仕立て。ぜひこのチャレンジにお付き合いください。
「九九九」で味わう、茶室の静寂と開放感
「九九九」は、茶室をテーマに、静寂と開放感を両立させた、他に類を見ない“和菓子を五感で楽しむ、新しい空間”作りが魅力です。
伝統的な茶室では、礼儀作法など、様々な決まり事に縛られることも少なくありません。
「九九九」では、そのような堅苦しさを排除し、茶室の外、例えばテラスや庭のような、より開放的な空間をイメージしたカウンターで和菓子とお茶をいただきます。
お客様に気楽に和菓子を楽しんでいただきたいという思いから、堅苦しい作法やルールを設けていません。ゆったりとくつろぎながら、五感を研ぎ澄ませ、和菓子の奥深い世界を堪能してください。
奥には「茶室」をいう位置づけコンセプトの空間が。
「九九九」の洗練された茶室空間には、茶聖 千利休の美意識を今に伝える、由緒正しき茶碗が静かに佇んでいます。
利休は、自身の茶の湯の世界観を具現化するため、様々な分野の職人に道具の制作を依頼しました。それが後に「千家十職」といわれる千利休の思想を引き継ぐ千家の茶道具を作る、それぞれの分野で最高峰の技術を持つ、まさに匠の集団になります。
その中で、茶碗を担当したのが「樂家」です。樂家は、桃山時代から今なお16代続く、京都の陶芸家一族。
初代長次郎は、利休の指導のもと、侘び寂びの精神を体現した「楽焼」を生み出しました。
その16代続いている、そのうちの4台が「九九九」に飾られています。楽焼の茶碗は、まさに利休の美意識が息づく逸品。
「九九九」で出来立ての和菓子を味わう際には、ぜひ、楽焼の茶碗にも注目してみてください。そこには、利休が追い求めた侘び寂びの世界が広がっているかもしれませんよ。
伝統的な茶室の要素を取り入れながらも、モダンなデザインと融合させることで、洗練された空間を創り出す菓子司「九九九」。
和菓子の世界を広げ、より深く楽しむための新たな舞台で、五感で味わう日本の四季をぜひ体験してみてくださいね。