[佐藤ひと美のスイーツレポート333]渋谷の真ん中で見つけた、未来のブドウ。「極旬ぶどう」ポップアップストアが仕掛ける、都市と農業の新しい関係。

高層ビルが立ち並び、人波が絶えない東京・渋谷。そんな街のど真ん中で、まさかブドウ畑に出会うとは思いもしませんでした。

MIYASHITA PARKで開催された「極旬ぶどう」のポップアップストアは、まさに非日常の体験を提供してくれる、画期的なイベント。

まるで本物のブドウ棚の下にいるような空間で、シャインマスカットを自分で収穫することもできる擬似体験。

たった数歩先にコーヒーショップがあるとは思えない、ブドウの甘く爽やかな香りが漂っていました。

このユニークな体験の仕掛け人である株式会社GREENCOLLARは、「季節が真逆の日本とニュージーランドで、高品質な日本品種のブドウを通年生産する」という壮大な挑戦をしています。このイベントは、彼らが掲げる「グリーンカラー」という、自然と共生する新しいライフスタイルを、まさに五感で感じさせてくれる場所でした。

  

なぜ、渋谷で「ぶどう狩り」なのか?

ポップアップ開催場所は、MIYASHITA PARKNorth 2F、THE [ ] STORE(ザ・ストア)

なぜ、東京の真ん中で「ぶどう狩り」という非日常的な体験を企画したのか。その答えは、GREENCOLLARが掲げる「都市と農村、生産者と消費者をつなぐ」という理念にありました。

GREENCOLLARスタッフ】

『今まで、私たちは山梨の農園に来ていただく取り組みを続けてきました。例えば、600人を超えるボランティア組織や、アマン東京の契約農園化などです。しかし、今度は逆に、さまざまな価値観が交わる渋谷という場所で、僕らの世界観を体現したかった』と、担当者は語ります。

今回のイベントでは、休日にはファミリー層、平日には若者、さらには海外からの観光客まで、幅広い層が訪れていたそうです。

誰もが気軽に足を運びやすいこの場所で、彼らのこだわりや情熱を直接伝え、新たなファンを増やしたいという思いが込められていたのです。

  

一流パティシエを魅了した「極旬ぶどう」の真価

繊細なアプローチで、ブドウの個性を引き出すコラボレーション

今回のイベントで特に注目したのは、一流パティシエたちが「極旬ぶどう」と向き合い、その魅力を最大限に引き出したコラボスイーツです。

EMMÉの延命寺シェフやpatisserie codeの担当者が口を揃えて語っていたのが、「生産者への共感」でした。特にpatisserie codeは、コラボが決まってすぐに山梨の畑を訪れたそうです。

『作り手の熱量を目の当たりにして、シャインマスカットの味わいに心から魅了されました』という言葉からは、単なる食材としてではなく、その背景にある物語や情熱ごとスイーツに取り入れたいという、真摯な姿勢が伝わってきます。

それぞれのシェフが、このブドウにどんな可能性を見出したのか、お話を伺いました。

  

EMMÉ 延命寺美也シェフ

表参道の人気パティスリー「EMMÉ」の延命寺シェフは、『極旬ブドウは瑞々しく、皮の旨みがしっかりしている』と語ります。

コラボのきっかけは、ブドウへのこだわりや、生産者の生き生きとした姿勢に共感したからだそうです。

シェフが手がけたのは、「EMMÉ×極旬シャインマスカットのハーブ香るショートケーキ」。 

一口食べると、まず驚くのは、その軽やかさ。38%の北海道産生クリームを使い、まるでパフェを食べているかのような感覚です。ゴロゴロと入った大粒のシャインマスカットは、あえて食感が残るようにカットされており、その瑞々しさと甘みが口いっぱいに広がります。

そこに絶妙に重なるのが、ハーブと緑茶の香り。特に、ハーブを細かく刻んでレモンと合わせたジュレは、ブドウの皮が持つ清涼感を際立たせ、緑茶のほのかな苦味がブドウの甘みをぐっと引き立てています。

「ハーブや緑茶のニュアンスを『足す』ことで、シャインマスカットらしさを強調した」というシェフの言葉通り、ブドウそのものが持つポテンシャルが、さらに高められた一品でした。

   

patisserie code

ONIBUS COFFEEの新デザートブランド「patisserie code」も、GREENCOLLARの持続可能な社会への取り組みや、ブドウへの熱意に感銘を受けて今回のコラボが実現したとのことです。

今回提供されたスイーツは2種類。 

一つは、「極旬シャインマスカットと松葉のジュレ ヨーグルトパンナコッタ」。

贅沢にトッピングされたブドウは、まさに宝石のよう。パンナコッタのなめらかな舌触りと、シャインマスカットの瑞々しい甘みがたまりません。そこにアクセントを加えるのが、松葉の香り。ヨーグルトや青みかんの酸味と合わさり、複雑で爽やかな香りの変化が楽しめました。

もう一つは、「極旬シャインマスカットと紅茶のバターサンド」。 

サクッとした歯切れの良いクッキー生地に、バタークリームとシャインマスカットのセミドライがサンドされています。ブドウを低温でじっくりと乾燥させることで、甘みがぎゅっと凝縮され、まるで違うフルーツのような濃厚な味わいに。紅茶の風味とバターのコクが、ブドウの旨みをさらに引き立てていました。

  

「本当の旬」を追求する、プライドが生む圧倒的な美味しさ

「極旬」という名の通り、このブドウは「本当の旬」を追求して作られています。

担当者は、『巷で見かける青々としたシャインマスカットは、実はまだ若い木から取られたり、欲張って実をつけすぎたりしていることが多い』と、市場の現状を教えてくれました。

それに対し、GREENCOLLARの「極旬ぶどう」は、一本の木からたった一房しか実らせないという徹底した管理のもと、最高に美味しいタイミングで収穫されるのです。これこそが、私が体験した「皮まで美味しく、香りも食感も素晴らしい」という、他にはない感動の理由でした。

この徹底したこだわりは、消費者だけでなく、子どもたちの食育にも繋がるといいます。スタッフのお子さんが、スーパーのシャインマスカットと「極旬ぶどう」を食べ比べたところ、正直に「こっちがいい」と言ったというエピソードは、子どもの舌がどれほど正直か、そして「本当の美味しさ」が持つ力を物語っています。

  

「極旬」という名の情熱を、都会で受け取る。

『粒旬』 詰め合わせでは、自身でひと粒ひと粒選んでオリジナルの粒旬セットを作ることができました。

今回のポップアップストアは、単なるブドウ販売に留まらず、生産者の哲学や未来の食のあり方を私たちに問いかける、貴重な機会となりました。

「極旬」という名前の通り、旬を極めるために世界を舞台に挑戦するGREENCOLLAR。そして、その情熱に共鳴し、素晴らしい感性でブドウの新たな魅力を引き出したパティシエたち。

食の未来を担う彼らの挑戦は、これからも私たちの心を豊かにしてくれるに違いありません。