[佐藤ひと美のスイーツレポート380]パティシエを狂わせる「至高の苺」の競演。コロンバン「第5回 全国いちご選手権」に見る、素材の進化と製菓の宿命

今から約100年前の大正から昭和初期。それまで職人たちが海外の見よう見まねで作っていた「西洋菓子」の時代を終わらせ、本場フランスの本格的な製菓技術を日本に定着させた「洋菓子の黎明期」がある。その夜明けを牽引したのが、1924年(大正13年)創業の株式会社コロンバンだ。

宮内省大膳寮(皇室の食事や晩餐会を司る部署)で最高峰の技術を磨き、日本人として初めて本場フランスの菓子界で認められた創業者・門倉國輝氏。彼が帰国後に日本で初めて本格的なフランス菓子を提供し、いまや国民的洋菓子となった「いちごのショートケーキ」の原型を考案・普及させたことは、スイーツ史におけるあまりにも有名なファクトである。

日本のいちごスイーツの“原点”を創り、2024年に創業100周年を迎えた同社が仕掛ける「お客様が選ぶ!!全国いちご選手権」の第5回表彰式が、2026年6月16日、明治記念館にて厳かに執り行われた。

本選手権は、単なる人気投票の域を遥かに超えている。

全国から選抜された29品種の苺をプロの目と舌で数値化(甘さ・酸味・食感・香り)し、厳選された8品種をワッフル専門店「Waffle Palette -ワッフルパレット-」にて実際に商品化。

2026年2月に京王百貨店新宿店で行われた催事期間中の「リアルな販売個数」のみで総合順位を決めるという、極めてシビアで商業的な説得力を持つコンテストである。

私が本イベントで最も注目したのは、100年の歴史を持つコロンバンだからこそ向き合える、「究極の素材(苺)」と「それを受け止める職人の技術」の壮絶なマリアージュ、そして葛藤である。

■ 栄冠の舞台裏:ベスト3に輝いた「テロワールと技術」

今回、トップ3に登り詰めた苺たちのプロフィールを紐解くと、日本の苺生産者が到達した凄まじい地平が見えてくる。

【第1位(5連覇達成)】あまりん®(埼玉県・ただかね農園)

キャッチコピー: 埼玉のプライド

生産者 株式会社TAKANO(代表:髙野宏昭氏・奈美子氏)

素材の特徴: 栽培を許可された農家のみが育てる限定品種。メロン級の圧倒的な糖度を持ちながら、くどさのない爽やかな酸味が抜ける。過去に雪害でハウスの多くを失う絶望を乗り越え、地域の有機資源(生ゴミ等)を用いた堆肥による土耕栽培にこだわり、20年以上情熱を注ぎ続けてきた「幻の苺」。

  

【第2位】おおきみ(宮崎県・大野農園)

キャッチコピー: 土壌のこだわり

生産者: 大野農園(大野 恭弘氏・福子氏)

素材の特徴: 農研機構が育成した大粒の精鋭。大野氏は「土と会話をしながら」定期的に土壌を入れ替える徹底した管理を行う。果肉が非常に引き締まっており、豊富な果汁とともに濃厚な甘みと酸味が美しく調和する。

  

【第3位】紀の香(和歌山県・前田農園)

キャッチコピー: 50年の技巧

生産者: 前田農園(前田 浩文氏・みどり氏)

素材の特徴: フルーツ王国・和歌山で3代・50年にわたり苺を追う名門。土を活性化させる「酸素農法」を駆使する。生産者が極めて少なく希少。華やかな香りと適度な酸味、弾むような爽やかな食感が特徴。

    

■ 「素材が良すぎる」という贅沢な絶望。パティシエの職人魂

表彰式の後半、壇上に上がったコロンバンの大野テクニカルプロデューサーの言葉に、会場にいた多くの業界関係者が深く頷いた。

『素材の味を大切に、壊さずにスイーツにすること。それは、素材が良ければ良いほど、パティシエとしては難しい……』

生で食べて完璧な苺は、すでに完成された芸術品である。

そこに生クリームの脂肪分や糖分、スポンジの生地のなめらかさ、天然バニラの香りを掛け合わせると、苺の繊細な風味や食感のバランスが整い、素材の良さが生きてくる。特に「あまりん®」のように甘みが突出した苺や、香りが特異な品種をお菓子に昇華させるには、「足し算」ではなく、緻密に計算された「引き算と調整」が必要不可欠となる。

  

今回、コロンバンの若手パティシエや工場のシェフ、そして大野氏が試行錯誤の末に導き出した、2027年1月発売予定の「スペシャルスイーツ」の構成から、その解決策を読み解きたい。

■ クリエイティビティの結晶:お披露目された3つのアプローチ

1. 概念を覆すドーム型「プレミアム クイーン ショートケーキ」

従来の「直方体や丸型のカット」というショートケーキの固定概念を捨て、イタリア・フィレンツェの伝統菓子である「ズッコット型(ドーム型)」を採用。

苺へのアプローチ: 使用するのは絶対王者「あまりん®」。乳脂肪40%のホイップクリームには、あまりんの糖度を引き立てるためにバニラや砂糖の配合を極限まで微調整。卵黄を多めに使用した伝統の風味が特徴のスポンジ生地と合わさることで、口の中で「苺、クリーム、生地」が同時に、ふわっととろけて消える計算されたテクスチャーを完成させた。

2. 女王の気品を纏う「プレミアム クイーン ロールケーキ」

苺へのアプローチ: あまりん®をカットせず、「ホール(丸ごと)」で贅沢に巻き込むことで、ナイフを入れた際の果汁の流出を防ぎ、口に含んだ瞬間に苺のフレッシュな細胞が弾けるように設計。ソフトなロール生地に合わせるクリームも特別に調整され、仕上げには「あまりん®」とチョコレートで作られたティアラ、そして金箔・青金ゴールドが飾られる。苺の圧倒的な存在感をホイップクリーム(乳脂肪分、糖分)の調整によって担保している。

3. テロワールを五感で味わう「アフタヌーンティー あまりん®SPセット」

(※コロンバン原宿サロン限定提供/予定価格7,000円前後)

ホテルのメインダイニングが提供するアフタヌーンティーに真っ向から勝負を挑む、圧倒的な完成度。

主役である【上段】には、あまりん®のポテンシャルを多角的に表現した「ショートケーキ」「ロマノフ(洋酒とクリームの融合)」「マカロン」「タルト」を展開。

そして特筆すべきは【中段・下段】のセイボリー。

2位の「おおきみ」の力強い食感を「鴨ロースト~はちみつ赤ワインビネガー~」や「ブルスケッタ」で受け止め、3位の「紀の香」の華やかな香りと爽やかな酸味を「リコッタチーズのサラダ」や「サーモンのカルパッチョ」へと昇華させている。

締めくくりの【SPデザート】として、上位3種(あまりん・おおきみ・紀の香)をすべて盛り込んだ「3種いちごパフェ」が鎮座する。

  

■ 日本の苺の未来を紡ぐ、最高の循環

日本の苺は、世界でも類を見ないほど品種改良と生産者の執念によって進化を遂げている。

今回の選手権にエントリーされた福島県の「ふくはる香(斎藤農園)」の桃のような爽やかな香り、千葉県の「ふさの香(ちあきのいちご園)」のジューシーな口どけ、三重県の「あまつおとめ(津インターファーム)」の濃厚さ、滋賀県の「みおしずく(七夕いちご園)」のフローラルな潤い……。そのどれもが、一人の「表現者(農家)」が生み出した傑作だ。

老舗洋菓子メーカーであるコロンバンが、彼らの顔写真や哲学を店頭で愚直にお客様に伝え、その評価を真摯に受け止め、さらにそれを超える技術で「お菓子」へと昇華させていく。

2024年に創業100周年を迎え、11月には定番のショートケーキの大胆なリニューアルを控えるコロンバン。

伝統を守りながらも、最高の素材と向き合い、自らをアップデートし続ける職人たちの挑戦は、2027年1月、私たちの口福となって原宿のサロンで花開く。スイーツに携わるすべての人間が、その情熱のドロップ(一粒)を体験すべきである。