[佐藤ひと美のスイーツレポート387]徳島のテロワール、構造の美学と温度の計算。柴田勇作が『PRISMIC』で提示する、ショコラとデセールの新たなる地平

「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2023」にて日本代表チームを16年ぶりの世界一へと導き、アイスクリーム部門を担った柴田勇作シェフ。

彼が率いるパティスリーブランド「PRISM」の次なる挑戦の舞台は、東京・青山(渋谷1丁目)。2026年8月8日(令和8年8月8日)、新たなスイーツギフトショップ&サロン『PRISMIC(プリズミック)』がグランドオープンを迎えました。

徳島・万代町にある80坪の広大な実験施設『PRISM LAB』を構えて2年半。

徳島の豊かなテロワールに魅せられ、現地に拠点を移した柴田氏だが、「徳島へ足を運んでいただく物理的なハードル」を解消したいという想いも抱いていた。 菓子の真価と技術を広く届けるべく、ブランドの表現を最大化して世界へ発信する“ショールーム”として誕生したのが、青山に構えたこの14坪のサロンである。

ブランド名「PRISMIC」のロゴが、後半の文字に向かってフォントを変化させていくように、常に進化を止めないチームの美学。2027年春以降には香港やマカオへの出店も決定しているというこの青山のサロンで、ショコラとデセールの概念を塗り替える真の感動に出会いました。

    

チョコレートとテロワールが奏でるシグネチャープロダクト『Rendezvous(ランデヴー)』の洗練

ブティックのアイコニックな存在として異彩を放つのが、青山限定の『Rendezvous(ランデヴー)』(税込 3,200円)だ。

柴田氏のパティシエとしての原点の一つである「ザ・ペニンシュラ東京」時代に出会った、香港の中秋節を象徴する「月餅」を着想源としている。教会のステンドグラスを思わせる八つの窓、ブランドの頭文字「P」を象った花びら、そして令和8年8月8日の創業日や八卦に由来する八角形の意匠。そこには、人と人、素材と土地を結ぶ「ご縁(ランデヴー)」への願いが緻密に彫り込まれた意匠が目を惹きます。

しかし、手で割った瞬間に広がる構造、さらに口へ運んだ瞬間に広がるのは、従来の焼き菓子やタルトの枠組みを鮮やかに裏切る重厚なショコラの質感である。

素材の重なりと緻密な水分値の計算

・深遠なるカカオガナッシュ:力強い苦味と深いアロマを持つベネズエラ産カカオ64%(クリオロ種・トリニタリオ種ブレンド)を使用したガナッシュが、全体の背骨を支える。

・二種のバニラが香るキャラメル:インドネシア産プランフォリア種とタヒテンシス種をブレンドしたキャラメル(Crème Caramel mou)が、ガナッシュとなめらかに溶け合う。

・テクスチャーの対比:ローストした国産胡桃の芳醇な油脂分と、土台となるサブレ生地のザクッとした食感が、層としての解像度を飛躍的に高めている。

  

一見すると伝統的な焼き菓子のフォルムでありながら、一般的な生チョコやタルトと異なり、常温でカカオのアロマとキャラメルが絶妙に伸び、口内で完璧なエマルジョンを形成する。これは一粒のボンボンショコラを月餅ほどのスケールへと拡張し、独自のショコラテリトリーを構築した「グラン・ショコラ・ムーン(Grand Chocolat Moon)」と呼ぶにふさわしい、まったく新しいショコラのカテゴリーである。

 

徳島のアロマとテロワールを抱く「AWAカヌレ・イデアル」の緻密な構造

ブティックで『Rendezvous』と並び確固たる存在感を放つのが、柴田氏がカヌレの理想を追求したスペシャリテ『AWAカヌレ・イデアル(AWA CANNELÉ IDÉAL)』(税込 572円)。

一般的なフランス伝統のカヌレがラム酒やバニラを軸とするのに対し、本作は徳島に移住したからこそ出会えたローカルなテロワールが緻密な計算のもと落とし込まれている。

・素材の重なりとアロマの設計:抽出した牛乳に徳島県(阿波)産の「阿波番茶」で奥行きある香りを移し、甘味には徳島県産和三盆由来の「和三盆黒糖蜜」を採用。さらに味覚の輪郭を際立たせる「鳴門の塩」、そして隠し味にふわりと抜ける「木頭柚子」のアロマを重ね合わせている。

・理想の配合と焼成が生むコントラスト:柴田氏が追求した独自の配合と大きさにより、じっくりと焼き上げられた外側(クラスト)は硬質で香ばしく、ナイフを入れた内側(クラム)は吸い付くようになめらかで濃密なエマルジョンを形成。トップにあしらわれた茶葉の視覚的アクセントとともに、噛みしめるほどに阿波番茶の芳醇な渋みと黒糖蜜のやさしい甘みが広がる。

さらに、サロショで1年分の在庫がわずか30分で完売した「木頭柚子ピールショコラ」も見逃せない。厚みのある果皮をコンフィにし、自家製シロップとバニラで1ヶ月かけて手作業で仕上げるコンフィズリーは、カカオの重厚感と日本の柑橘のアロマが完璧な均衡を保っている。

徳島から東京、そして世界へ。

焼き立ての香ばしさの奥に広がる日本の地方都市の豊かな情景は、まさに「PRISMIC」が目指す素材と人との幸福な出会いを体現した作品たちだった。

   

口内を冷やさない計算。3年分の進化を遂げた「マイナス8度」と「常温」が織りなすアシェットデセール

9月末より完全始動するショールームサロンでは、都内二つ星フレンチのシェフパティシエを歴任し、都内有名店で柴田氏とともに研鑽を重ねてきた飯塚美穂氏がシェフパティシエを務める。ここでは、クープ・デュ・モンド2023で世界を制した伝説の作品が、アシェットデセールとして再構築されて登場する。

世界大会時(※クープ・デュ・モンド2023)のテーマ「気候変動」を象徴する作品「木頭柚子のフローズン・ロリポップ」は、薄く儚いフランス産ショコラのシェルを割ると、柚子・マンゴー・パッションのジュレとヘーゼルナッツプラリネが官能的に溢れ出す。

大会で話題を呼んだプロペラ状の飴細工は、わずかな振動で揺れる「鳥の羽」へと進化を遂げた。

アントレメグラッセ『BRISE(そよ風)』における温度の再設計

氷菓(グラス)を扱うデセールにおいて最大の難所は、「口内が冷えることで人間の舌が甘みや香りの感知能力を低下させてしまう点」にある。柴田・飯塚両氏は、この物理的課題に対して極めて論理的な解を提示した。

・温度管理の徹底:アイスケーキ本体は、パインソルベやココナッツアイスの核をマイナス8〜9度に正確にコントロール。

・常温素材による相殺:周囲に常温のバニラクリーム、焼きマカダミアナッツ、シトロイゼル生地、新鮮なフルーツを添えることで、口内の冷えを防止。

・風味のグラデーション:冷たさと常温が口内で交互に交差することで、カカオやフルーツの香気成分が立体的に鼻腔へと抜け、舌の上で最後まで豊かな余韻が持続する。

4メートルのイチョウの一枚板がつなぐ、人と素材の「ランデヴー」

渋谷1丁目の新築ビル1階、わずか14坪・天井高2.25mという極小空間。徳島本店の80坪という大空間とは完全な対照をなすこの場所に、長さ4メートルにおよぶ粗野なイチョウの一枚板が力強く鎮座している。

クラシカルなキッチンのマテリアルと現代的な造形、徳島の豊かな自然と青山の多様な美意識。対比によって生まれる「新しさ」は、単なる店舗デザインを超え、提供されるスイーツの構造そのものと深く共鳴している。

手折りの八角形パッケージや青海波文様に「穏やかな幸せが長く続くように」という願いが込められているように、『PRISMIC』は単に甘味を提供するにとどまらず、菓子という媒体を通して地域創生や文化の伝達を試みる、現代のパティシエの誠実な生き様そのものである。

世界を魅了したショコラとアイスの技術、徳島が育んだ「木頭柚子」の息吹。その真価を確かめに、ぜひ青山のサロンへ足を運んでほしい。

一皿のデセール、一粒のショコラを味わったとき、あなたの洋菓子に対する概念は静かに、けれど確実に塗り替えられる。きっとあなたにとっても「偶然のような必然の出会い」になるはずです。

PRISMIC(プリズミック)店舗

オープン日:2026年8月8日(土)※ショールームサロンは9月末開始予定

住所:東京都渋谷区渋谷1丁目7-2 VORT渋谷east II 1階 

営業時間:11:00〜19:00(不定休) 

公式HP:https://prismic-t.jp/