【インタビュー】『ロンドンおいしいお菓子時間』著者・牟田彩乃さんに聞く「お菓子を通して沢山の方と繋がっていくことが出来たら幸せ」


ロンドン在住の菓子研究家・牟田彩乃さんが、このたび『ロンドンおいしいお菓子時間』を出版されました。「スコーン」「キャロットケーキ」など誰もが知る英国菓子はもちろん、人気のカフェやSNS映えするスポットなど、ロンドンの空気やそこで暮らす人々の息遣いも感じられるような、今のロンドンを盛りだくさんに閉じ込めた一冊です。パティシエの祖父の影響で幼いころからお菓子づくりに親しんでいたという牟田さん。お菓子への深い愛情や、イギリスに根付くチャリティー精神に共鳴するようなあたたかい思いが伝わる牟田さんのインタビューを、どうぞお楽しみください。


Profile  牟田 彩乃

全日空国際線CAとして5年間勤務後、パリへお菓子留学。
エコール・ド・リッツエスコフィエを卒業し菓子研究家として活動。アラブ首長国連邦での生活を経て、現在ロンドン在住。
お菓子教室主催、雑誌へのレシピ提供などを行なう。
著書に『アラブの奇蹟 夢見るドバイ』(産業編集センター)がある。

blog
「アラブのお菓子な日々」   http://madam-ayano.cocolog-nifty.com/
「ロンドンのお菓子な日々」  https://ameblo.jp/london-sweets/


――牟田さんとお菓子作りとの出会いを教えてください。

牟田「私の母方の祖父(92)がパティシエでしたので、物心ついたときからお菓子作りが遊びでしたし、お店で働いているパティシエのお兄さんが大好きな遊び相手でもありました。(祖父は洋菓子店を始め、第一回洋菓子展示研究発表会で最優秀技術賞を受賞(1969年)、日本の洋菓子界の第一人者として専門誌にも執筆したりしておりました。)祖父が私の為に用意してくれた可愛いクッキー型は今でも大切にしています。本格的にお菓子を学び始めたのは19歳の時、コルドンブル―へ、その後職業訓練法人「東京都菓子学園」を卒業し国家資格を取得しました。航空会社へ就職しましたが、一生の仕事は『お菓子』と決めていましたので、航空会社退職後、本場で学ぶためフランスのエコール ド リッツ エスコフィエへお菓子留学をしました」


――国際線客室乗務員として世界中をフライトし、パリやドバイで生活されるなど、たくさんの海外経験をもつ牟田さん。現在ロンドンにお住まいですが、ロンドンのどんなところに惹かれたのでしょうか。

牟田「都心にも緑が多く、自然豊かなこと。新鮮で美味しいオーガニックの野菜、果物、乳製品が簡単に手に入ること。気候がよい(夏が涼しい)こと。無料の美術館が充実していることなどですね。
今のロンドンは美味しくヘルシー、お洒落なカフェやレストランも充実しており、食にもとても満足しています。また健康志向の高いロンドンではお砂糖や乳製品を使わないヴィーガン、グルテンフリーのお菓子も揃いますので、ヘルシーなお菓子を楽しむ事もできます。ファーマーズマーケットで美味しいお菓子やサラダを買って公園の芝生でのんびりピクニック、というのがお気に入りの過ごし方です」


――牟田さんのロンドンでのお菓子の楽しみ方を教えてください。

牟田「ロンドンではアフタヌーンティーを楽しむ事も多いですが、気軽に英国らしさを味わう事の出来る『クリームティー』はお気に入りです。『クリームティー』とはスコーンとクロテッドクリーム、ジャム、紅茶の組み合わせ。多くのティールームで時間を問わずいただけるのも嬉しいです。犬を飼っているので、愛犬と行く事の出来るガーデンカフェ等がお気に入りです。
また、昔からヨーロッパの地方菓子を巡る旅が好きなので、イギリスでも地方へ旅行すると必ずその地方のお菓子をいただきます。その時にお店の方にお菓子の材料や由来などのエピソードもお聞きしたりすることで、より愛着がわく事も多いですから、地元の方達との触れ合いも大切にしています」


――「ロンドンおいしいお菓子時間」を出版されたきっかけや、本書の魅力について教えてください。

牟田「私がライターとして執筆していた旅行サイトのロンドンのお菓子に関する記事を見た、産業編集センターの方がお声をかけてくださったことがきっかけでした。私は日頃からひとりで歩いて、『ここは是非皆に知ってもらいたい!』という素敵なお店、お菓子を見つけ写真におさめるのが趣味ですから、本の企画書を作るのも比較的スムーズだったのではないかと思います。
英国菓子の大きな魅力のひとつは『誰でも簡単に作る事の出来るシンプルさ』だと思います。
家庭にある材料で、ボールと木べらがあれば作ることが出来ます。また、華やかさはありませんが、その歴史を知ると愛着が沸くものが多いです。是非多くの方に魅力を知っていただきたいと思います。
本書では、お店の紹介に加え、今のロンドンに暮らすイギリス人が、伝統的な英国菓子とどのように関わっているか。また、英国のチャリティーについて、貴族の社交の場である会員制社交クラブやロイヤルアスコットで楽しまれるお菓子など、普段なかなか垣間見る事の出来ない世界も写真と共にご紹介しています」


――お菓子とアロマテラピーのサロンをスタートされたそうですが、どのような活動をされているのでしょうか。

牟田「お菓子とアロマテラピーのサロンでは、英国菓子やアフタヌーンティー、アロマテクラフト、アロマコラージュ(アートセラピーの一種です)を組み合わせたレッスンや個人セラピーを行っています。アロマクラフトでは蜜蝋を使ってハンドクリームを作ったり、コロンやマッサージオイルを作ります。サロンで使用するものは、天然100%、高品質なオーガニックの材料のみ、というこだわりをもって行っています。
渡英後、ずっと興味のあったアロマテラピーと心理学を組み合わせた『芳香心理療法』の勉強を始めました。イギリスでは、アロマテラピー・フラワーエッセンス、ハーブ、ホメオパシーなどの自然療法が生活に根付いており、小学校の先生も子どものケアに勧めることもある程です。美味しいお菓子と、アロマテラピーで、リラックスした癒しの時間を過ごしていただきたいとの思いでサロンをオープンしました」


――牟田さんがこれから挑戦してみたいこと、興味があること、作ってみたい本などあれば教えてください。

牟田「これからの目標は、若い方や子ども達に『食』を通して豊かな人生、幸せな生き方というものを伝えていくこと。そして、英国菓子の魅力や、アフタヌーンティーの文化、マナー等もお伝えしていきたいと考えていますので、楽しく学んでいただけるスクールを開きたいと思っています。
また、世界にはお菓子どころかあたたかいご飯をお腹いっぱい食べられない子ども達も沢山いるのですよね。現在も出来る範囲でお菓子を通じたボランティアをおこなっていますが、今後もお菓子を通して社会に貢献出来る活動を行っていきたいと考えています。
作ってみたい本ですが、私は海外の雑誌に出てくるような、ハーブをたっぷり使った、簡単でお洒落に見える料理、お菓子が大好きなので、おもてなし料理の本などを作るのも楽しそうですね。
また、海外での育児についての本や、大好きな旅や英国の地方菓子、ホテルについて。あと、妹がハーブや自然療法、ホリスティック栄養学の専門家なので、2人でハーブや自然療法に関する本も書けたら楽しそうです。夢は膨らみます!
子ども達が独立したら、大好きな南仏に小さな家を買い、お庭で育てたハーブや野菜で料理をし、愛犬とのんびり過ごし、ヨーロッパのお菓子や風景を写真と共に発信していく。これは将来の私の夢です」


――最後にスイーツファンに向けて、メッセージをお願いします。

牟田「最近では、大学生の方や若い方から、『パティシエになりたいのですがどうしたら良いですか?』というご質問をいただくことが増えとても嬉しく思っています。
私が本気でパティシエを目指そうと思ったきっかけは、高校生の時、曽祖母からの『これからの時代は女性でもひとつ手に職をつけなさい。必ず自分の身を助けてくれるから』という言葉でした。曽祖母は非常に商才のある人だったと聞いています。
お菓子の仕事は、自分のペースで一生を通して出来るとても素晴らしい仕事だと思います。特に女性にとって『手に職』があるという事は、結婚しても、ママになっても、何処に住んでも仕事が出来る、という意味では大きな強みになりますし、家族にも喜んで貰えるものです。
『お菓子』といってもパティシエとしてケーキ屋さんやレストランで働くのか、お店を経営したいのか、ケーキ教室やサロンを開くのか、お菓子のプロフェッショナルとしてライターやフードジャーナリストとして知識を生かすのか、様々な道があると思います。ご自分の得意分野を生かせる道がきっと見つかるのではないかと思います。
最後に、皆様が仕事を選ぶ時に是非、『好き』『条件』だけではなく、『自分は仕事を通して世の中の為に何が出来るだろうか?』ということも、考えて欲しいと思います。美味しいお菓子を作って人を笑顔にしたい、家族団欒の幸せな食卓をご提供したい、ということでももちろん良いですね。
私の祖父は、出来る限り新鮮な質の良い材料で、添加物を使わずに、お客様が長く楽しんでいただける、身体に良いお菓子を作りたいというこだわりを持っていました。そして、万が一震災などで食料が足りなくなったとき、お店にある沢山のクッキーや焼き菓子を近所の子ども達に食べてもらう、といつも話していました。
そのような思いはお客様にも伝わると思いますし、『自分が仕事を通して世の中の役に立っている』と思えることが、やりがいのある仕事に繋がるのではないかと思います。
私も、お菓子を通して沢山の方と繋がっていくことが出来たら幸せに思います」


『ロンドンおいしいお菓子時間』

著者:牟田 彩乃
出版社:産業編集センター
発売日:2018年1月19日

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https://www.amazon.co.jp/dp/4863111746