テレビ・雑誌、WEBメディアでも活躍している菓子文化研究家の原亜樹子さん。欧米の菓子に造詣が深く、アメリカ菓子が得意分野。国内外の食、お菓子を訪ねることがライフワークで、特に、アメリカには留学経験もあり、何度も訪れているそうです。このたび、「朝食ビスケットとコーンブレッド なつかしくて新しい、アメリカ南部のクイックブレッド」を出版されるにあたり、原先生がなぜ、アメリカの食やお菓子に興味を持ったのか、知られざるアメリカの食やお菓子の魅力、文化についてお伺いしました。
Profile 原亜樹子 (はら あきこ)
菓子文化研究家。千葉県生まれ。アメリカ・イリノイ州のMacArthur高等学校へ留学・卒業後、東京外国語大学へ進学。大学で食の文化人類学を学ぶ。卒業後、国家公務員として特許庁に入庁。入庁6年目に退職し、菓子文化研究家へ転身。現在はウェブや雑誌、単行本での仕事が中心。イベントや教室も開催している。
【資格】
日本菓子専門学校通信教育課程修了/ル・コルドンブルー菓子ディプロム取得(東京校)/製菓衛生士/ティーインストラクター(日本紅茶協会認定)
【著書】
『アメリカ郷土菓子』・『自家製グラノーラと朝の焼き菓子』・『コブラ―とクランブル』・『ミエッテのお菓子(訳書)』
国内外の食、特にお菓子を訪ねることがライフワーク。
(アメリカへは何度も。長崎・ポルトガルへ南蛮菓子を訪ねて、ミャンマー・マレーシア・シンガポール・フィリピン・タイ・台湾・韓国・チェコ・イタリア・フランス・ドイツ・ベルギー・ニューカレドニアetc.)
【ブログ:handmadeおやつどき】
http://oyatsudoki.exblog.jp/
――原さんが「アメリカの食」に興味をもったきっかけは何ですか?
原「高校時代にアメリカへ留学し、卒業するまで一年ほど過ごしました。その際お世話になったホストファザーが、農業雑誌の記者をしていたことから、アメリカの食の現場の取材に同行する機会が度々あり、さらに、ホストファザーが食への関心が高く、様々な話を聞かせてくれて、わずか1年の間に13州を旅し、色々な食を経験させてくれたことから、アメリカの食の様々な面を知り、興味がわきました」
――今回出版された本のテーマについての質問です。なぜ『ビスケット』と『コーンブレッド』をメインテーマにしたのですか?
原「「ビスケット」も「コーンブレッド」も、アメリカの食卓を支えてきた、伝統的なクイックブレッド(無発酵パン)で、どちらも手の温もりが感じられる「Comfort Food(癒しの味、懐かしさを感じるほっとする味)」です。今、アメリカでは、信頼できる材料で、丁寧に手作りされたものを見直す流れにあり、その中にあって、ビスケットとコーンブレッドが改めて注目されています。どちらも、その歴史を遡ることでアメリカの歴史までも見えてきて、とても興味深いことから、メインテーマにしました」
――アメリカの歴史と食文化は深いつながりがあるかと思いますが、現在のアメリカの食文化につながるまでの歴史を簡単に教えてください。
原「様々なアメリカインディアンの食文化や、アメリカ大陸原産の食材、ヨーロッパからの入植者が持ち込んだ食文化、アフリカから奴隷として連れて来られた人々の食文化、さらには世界各国からの移民の食文化など、様々な歴史的な背景が絡み合い、アメリカ各地の食文化が形作られてきました」
――昔ながらのアメリカの料理やお菓子と、今食べられているアメリカの料理・お菓子はどのような違いがありますか?
原「ヨーロッパからの入植者から見るアメリカの伝統的な食文化は、アメリカインディアンにならったメープルシロップやアメリカ大陸原産のトウモロコシ、クランベリー、かぼちゃなどの新しい環境での食糧事情と、祖国の食文化を融合させたもので、たとえばパンプキンパイやコーンミールを使ったプディングやマッシュ(粥)、ブレッド類があります。現在のアメリカの料理やお菓子は、それらの伝統的なものに加えて、色々な移民の文化なども加わり多彩です。また、手軽さや価格の安さや効率性から支持される、既製品やファーストフードが現在のアメリカの料理の象徴のように言われる一方で、最初にお伝えしたように、伝統的な食や、信頼できる材料で作られた手作りの料理やお菓子を見直し、大切に思う人も増えてきています。
――アメリカの、地域による料理やお菓子の違いについて教えてください。
原「例えばニューイングランド地方や、ヴァージニア州などでは、イギリスからの入植者の食文化を引き継いだ伝統料理が今も食べられていたり、南部と呼ばれる地域では、コーンミールを使ったコーンブレッド類やグリッツなどのトウモロコシ料理、フライドチキンのようなソウルフードが食べられていたりと、古くからの伝統料理を見ることができ、興味深いです。一方で、西海岸では、素材の大切さに目を向けるなど、今のアメリカの食の流れも見ることができるなど、その土地で手に入る食材や、その土地の歴史、外部から入ってくる人や情報量などにより、各地で様々な料理やお菓子が食べられています」
――現在、アメリカの人達に人気の朝食やお菓子を教えてください。
原「朝食では、手軽に食べられるうえ、栄養価が高いので、シリアル類は人気です。冷たいシリアルを食べたい人はグラノーラ、温かいものを食べたい人はオートミールなど。また、毎朝グリーンスムージーを作ったり、コールドプレスジュースを飲んだりするという友人もいますし、ちょっとした焼き菓子とコーヒーなどでエネルギーチャージをする人もいれば、ドーナツも根強い人気があります。 パンケーキやワッフルも引き続き人気です。さらに、南部の味として知られる「ビスケット」の朝食が、ほかの地域でも楽しまれるようになっていることを感じます。たとえば、ビスケットにミルクのグレイヴィーをたっぷり添える「ビスケット&グレイヴィー」やフライドチキンを挟んだビスケットのサンドイッチは、典型的なアメリカ南部の朝食ですが、ほかの地域でも専門店ができ、楽しめるようになってきました。お菓子では、クッキーやマフィン、ドーナッツやアイスクリームが変わらず愛されているほか、上質なチョコレート、グルテンフリーの焼き菓子なども定着してきました」
――今後注目のアメリカのお菓子や原さんが注目しているお菓子を教えてください。
原「人気が再燃しているパイ、スパイスや香りをうまく使った洗練されたお菓子など、そして引き続き、ちょっとひねりを効かせたアイスクリームサンドイッチ、グルテンフリーのお菓子にも注目しています」
――最後にスイーツファンに向けて、メッセージをお願いできればと思います。
原「食べものは、自分の口に合う、合わないというところに止まらない、たくさんのことを教えてくれる興味深いテーマです。食を通して見るアメリカの歴史や文化の面白さに魅了されて、今回の新刊本のほか、『アメリカ郷土菓子』『コブラーとクランブル』などでも、あまり知られていない、アメリカの食文化をご紹介しています。今回の新刊本と併せて、お楽しみいただけると嬉しいです」
朝食ビスケットとコーンブレッド
なつかしくて新しい、アメリカ南部のクイックブレッド
著者:原亜樹子
出版社:グラフィック社
発売日:2016年4月25日
昔ながらのホームメイドの味が今もなお残るアメリカ南部。中でも特に伝統的な2つのクイックブレッド「ビスケット」と「コーンブレッド」は「癒しの味」として、アメリカ全土で注目されています。どちらも発酵いらずで作れて、アメリカではどんな料理にも添えられる、「食事のお供」のような存在。本書では、ビスケットやコーンブレッドだけでなく、それらを使ったサンドイッチやパイ、スープなど、食べたことのないアメリカ家庭料理を歴史的な背景とともに紹介。アメリカンフードのジャンクなイメージが一新する一冊です。