[佐藤ひと美のスイーツレポート335]Mr. CHEESECAKEが解き明かす、ぶどうの新たな可能性。『Glass Dessert Classic with Grape』の技術と哲学

「世界に誇るトーキョーチーズケーキ」として知られるMr. CHEESECAKE。

その初の旗艦店であるMr. CHEESECAKE GINZA SIX店は、単なる物販店ではなく、「おいしいをしつらえる」をコンセプトに、シェフ田村浩二氏の「レストランデザートのようなトータルな体験」を提供する空間です。

Mr. CHEESECAKE GINZA SIX店「Mr. CHEESECAKE」の原点と進化 – 銀座旗艦店に込められた想い – by [佐藤ひと美のスイーツレポート311]

この洗練されたイートインスペースで、今、特別なグラスデザートが登場しています。

ノウタス株式会社のぶどうプロジェクト「パープルM」とのコラボレーションによる『Glass Dessert Classic with Grape』

パープルMとは
村上信五がパーソナリティを務める経済ラジオ番組『村上信五くんと経済クン』(文化放送)に、オンライン果物狩りや、農業ワーケーション、観光農園DX、農家ファンづくり支援など、農を楽しむアグリテインメント(農+エンターテインメント)の企画開発をするノウタス株式会社 代表取締役会長 髙橋 明久がゲスト出演したことがきっかけで、ぶどう農家や日本の農業の課題などを知り、「ぶどうをもっと楽しく、もっとおいしく、もっと身近に、もっと無駄なく。」という願いを込めて作られたプロジェクトです。世界中で愛され、生産量の多いぶどうの可能性に注目し、人々の生活にもっと寄り添い、食糧や貧困の問題をも解決していく存在になれるよう、ぶどうの生産から加工、ブランディング、流通販売、新種の研究開発まで、消費者が「参加」「体験」できるサービスを企画開発していきます。

この一皿が持つ「規格外品を主役に昇華させる技術」と「緻密に計算された香りの構成」を、多角的に掘り下げていきたい。

 

開発コンセプト:なぜ「グラスデザート」なのか?

このぶどうのデザートは、GINZA SIX店の定番メニューである「Glass Dessert Classic」をベースに、季節のフルーツと合わせた限定版として展開されています。

シェフ田村氏がグラスデザートにこだわる背景には、「デザートコースはまだハードルが高い」という課題意識があります。

高級レストランでしか体験できなかった「一皿のデザート」の体験を、よりカジュアルに、パフェのような視覚的な楽しさと十分な満足感を持って提供するための再構築が、このグラスデザート。

また、「グラスデザート(Glass Dessert)」という名称には、器がグラスであることと、フランス語でアイスクリームを意味する「グラス(Glace)」をかけ、アイスクリームを中心としたデザートであることを示す、二つの意味が込められています。

  

<定番「Glass Dessert Classic」の構成>

定番「Glass Dessert Classic」 価格:2,090円(税込)

この定番メニューは、Mr. CHEESECAKEのシグネチャーフレーバーを構成するバニラ、レモン、トンカ豆の要素をそれぞれ分解し、ブランマンジェ、ジュレ、ディプロマットクリームなどに仕立てて再構築したものです。各パーツが口の中で溶けるタイミングが緻密に設計されており、「味わいと香りがメロディーのように美しく連なり流れていく」という体験を可能にしています。

  

1. ぶどうの「無駄なく」を実現する、フレンチの技術

季節限定「Glass Dessert Classic with Grape」 価格:2,420円(税込)

このデザートは、「パープルM」のコンセプトである「ぶどうをもっと無駄なく」というテーマを、卓越した技術で具現化しています。規格外品のぶどうを使用するだけでなく、通常は廃棄されがちなぶどうの皮までをも、味わいの要素として最大限に活用しています。

 鮮烈なコントラストを生む「皮のエキスジュレ」

グラスの中で目を引く美しい紫色のジュレこそが、このデザートの魂。

これは、ぶどうの皮から丁寧に抽出されたエキスをベースに、ハーブとレモンで洗練された風味を加えることで生まれます。皮の持つ奥深いタンニン(渋み)や天然の色素を活かし、ぶどうの「フルーティーさ」を、単調な甘さではなく、奥行きのあるエレガントな風味へと昇華させています。

2. 「香りの二重奏」と緻密な温度設計

シェフ田村氏の真骨頂は、素材の組み合わせによる香りのレイヤー(層)の構築にあります。Mr. CHEESECAKEの遺伝子を受け継ぐ「香りの複雑さ」が、ぶどうの瑞々しさを何倍にも高めていると感じました。

2種のアイスが担う、機能的な役割

このデザートには、香りと温度、テクスチャーの異なる二種類のアイスが機能的に配置されています。

ぶどう×ミント×ライムのソルベ(グラス内 右)、ヨーグルト×バニラのアイス(グラス内 左)

ぶどう×ミント×ライムのソルベ: このソルベは、ぶどうのピューレにライム果汁とミントを加え、清涼感と酸味でぶどうの鮮烈な風味を際立たせる役割を担っています。「結構爽やかな味わい」が特徴です。

ヨーグルト×バニラのアイス(クラシックベース): こちらは、定番「Glass Dessert Classic」の核となる要素です。バニラとヨーグルトをベースに、Mr. CHEESECAKEの核となるバニラの芳醇な香りを添え、穏やかな酸味で全体のトーンを支える土台です。

なお、ベースとなる「Glass Dessert Classic」には、ぶどうソルベではなく、クリームチーズを使った濃厚なアイスクリームが組み込まれ、「一皿としての満足感を高める」というコンセプトが徹底されています。

今回の『with Grape』では、この「クラシックの香りの土台」にぶどうが融合することで、爽快感と満足感の両立が図られています。

3. Mr. CHEESECAKEのDNAを継ぐ「奥深さ」

この一皿はチーズケーキそのものではありませんが、「チーズケーキ感というよりかは、爽やか系」という通り、「香りの複雑さ」というMr. CHEESECAKEのDNAを深く継承しています。

 芳醇な隠し味:トンカ豆のグランマルニエ

グラスの最下層に配された「トンカ豆のブランマンジェ(グランマルニエ)」が、全体の味わいに深みを与えています。

Mr. CHEESECAKEの香りの要であるバニラ、レモン、そしてトンカ豆が融合。杏仁のような独特な甘い香りのトンカ豆が加わることで、ぶどうのシンプルさに深みとエレガンスをもたらし、「爽やか系」でありながら満足感のある味わいを実現させているのです。

レストランの技:パコジェットとメレンゲのこだわり

アイスクリーム製造には、液体を瞬間的に超高速で加熱・撹拌し、出来立てのような極めて滑らかな舌触りを実現する「パコジェット」という特殊な機器を使用。さらに、添えられたメレンゲは、甘すぎると食感が重くなり「ネチネチ」してしまうため、糖度を意図的に下げて作られているという、細部にわたるこだわりが、最後まで飽きさせないテクスチャーを生み出しています。

 締めに効く、すだちの皮のトッピング

仕上げに乗せられたすだちの皮が、味の引き締めに重要な役割を果たします。

柑橘の爽やかな香味が、最後に鼻孔を抜け、全体の味わいをすっきりと締めくくる、完璧な「終止符」です。

『Glass Dessert Classic with Grape』は、規格外品を単に使うだけでなく、そのポテンシャルを引き出し、香りの設計という高度な技術で完成させた、Mr. CHEESECAKEならではの挑戦的な一皿です。

2025年9月25日(木)~10月14日(火)の限定期間、GINZA SIX店のカフェで、この洗練された体験をぜひ味わってください。