[佐藤ひと美のスイーツレポート362]ミシュラン3つ星レストランのDNAが京都の旬と交差する。エースホテル京都『KŌSA』で目撃した、進化し続けるアフタヌーンティーの到達点

京都の烏丸御池、歴史ある名建築の中で、今もっとも鮮烈な「味覚の再構築」が行われている。エースホテル京都のメインダイニング「KŌSA(コウサ)」だ。 

ここには、変わるものと、変わらないものが共存している。 

今回私が目撃したのは、特定の型に嵌まることを拒み、シーズンごとに世界中の卓越した才能と「交差(KŌSA)」することで、アフタヌーンティーの概念を塗り替え続ける革新的な試みだ。その中心には常に、地域農園から届く瑞々しい素材への敬意がある。揺るがない哲学と、変容するクリエイティビティ。その鮮やかな交差点で目撃した「食の今」をレポートする。

舞台の背景:名建築と「East Meets West」の精神

Ace Hotel Kyoto 外観

大正時代の面影を残す赤レンガの外観に、モダンな木組みが美しく寄り添う 。烏丸御池のランドマーク「新風館」内に位置するエースホテル京都は、建築家・隈研吾氏とLAのデザインチーム「コミューンデザイン」の感性が響き合う、まさに“文化の交差点”だ 。

新風館 中庭

館内へ一歩足を踏み入れれば、旧京都中央電話局としての記憶を刻む重厚な梁や、職人の手仕事が光る和紙の照明が迎えてくれる 。そこには「East Meets West(イースト ミーツ ウエスト)」というコンセプトが、単なる言葉を超え、確かな空気感として満ちている。

その3階に位置するメインダイニング「KŌSA(コウサ)」へと足を進める。

吹き抜けから差し込む柔らかな光と、生命力あふれる植物の緑。そしてオープンキッチンから漂う活気に満ちた香りが、これから始まる食の体験への期待を鮮やかに彩る。西洋の自由な発想と、京都が育んできた伝統的な美意識。この二つが対立することなく、ここでは一つの洗練されたリズムを奏でているのだ。

(〜5月6日まで)独創的な「味覚の対話」:ステファノ・フェラーロ氏が描く緻密なパズル

現在、この舞台を彩っているのは、コペンハーゲンのミシュラン3つ星レストランで5年にわたりペストリー部門のR&D(研究開発)責任者を務めたステファノ・フェラーロ氏による監修メニューである。彼の皿には、単なるスイーツという概念を超えた、緻密な計算による「知的な驚き」が潜んでいる。

KŌSA × Stefano Ferraro スペシャル・アフタヌーンティー

価格:7,000円〜

提供期間:〜2026年5月6日(水)

内容:

〈セイボリー〉卵とマスタードシードのピクルスサラダロール、マグロとスイートコーンのロール

〈ベイクド・スイーツ & ペストリー〉ブラウンバターフィナンシェ 蜂蜜の花粉、ココアクッキー、アールグレイクッキー、柚子カード入りクルフィン

〈デザート & スイーツ〉クリームチーズとブラックカレンツのドーナツ、ヨーグルトムース ルバーブと麹オイル、山椒のパンナコッタ 柑橘、ミルクパフェ 苺のピューレ メレンゲ

〈フリーフロードリンク〉コーヒー、紅茶(一保堂、7T+etc)、ソフトドリンク

  

例えば、「山椒のパンナコッタ 柑橘」。

漆黒の器に映える、純白のパンナコッタと鮮やかな柑橘のコントラストが目を引く。山椒の葉をインフューズ(抽出)したエッセンスと山椒オイルが放つのは、痺れるような刺激ではなく、柑橘の酸味を立体的に引き立てるための「香りのピース」としての役割だ。舌の上で滑らかに溶けるパンナコッタの甘美な余韻の中に、微かに残る山椒の清涼感。京都の伝統食材が、世界最高峰の技法というフィルターを通し、未知の喜びへと昇華されている。

さらに、ミラノの人気ベーカリーカフェ「Loste Café」の創設者としての真骨頂を感じさせたのが、「柚子カード入りクルフィン」である。

マフィン型にクロワッサン生地を詰めて焼き上げたこのハイブリッドスイーツは、指先で触れれば「パリッ」という軽やかな音とともにバターの芳醇な香りを解き放つ。中には、卵のコクと柚子の鋭い酸味が溶け合う「柚子カード」が隙間なく詰められ、一口ごとに多層的なテクスチャーが口内で弾ける。

ステファノ氏の遊び心は、「クリームチーズとブラックカレンツのドーナツ」にも宿る。

粉糖を纏った愛らしい「ベビー・ドーナツ」の中には、クリーミーなチーズムースと、酸味の強いブラックカレンツ(カシス)のコンポートが隠されている。甘さを控えめに設定することで、素材が持つ本来の輪郭を浮き彫りにする手法は、まさに「noma」時代に培った科学的アプローチそのものと言える。

また、「ミルクパフェ 苺のピューレ メレンゲ」の構成も独創的だ。

濃厚なクリームチーズムースと苺のソテーをベースに、仕上げに忍ばせた「昆布オイル」が、デザートに欠落しがちな「旨味(ウマミ)」を補完している。スイスメレンゲの甘み、苺の酸味、そして昆布由来のまろやかな塩気が口の中で重なり合い、奥行きのある味わいを生んでいる。

一方で、「ヨーグルトムース ルバーブと麹オイル」には、ルバーブの果汁とともに「麹オイル」が添えられている。

発酵由来の深みを持つオイルが、ヨーグルトの爽やかさに奥行きを与え、まさにミシュラン3つ星レストランのDNAを感じさせるガストロノミックな仕上がりだ。

『その土地の旬を、科学と感性で読み解く』という姿勢。それが京都北部・鷹峯で400年以上にわたり農業を営む「樋口農園」などの伝統野菜と出会ったとき、アフタヌーンティーは単なる休息の時間ではなく、一つの表現へと変わるのだ 。

変わり続けるからこそ、美しい

KŌSAのアフタヌーンティーが面白いのは、このステファノ氏の緻密な世界観もまた、ひとつの「通過点」であるということだ。ここでは、エースホテルが世界中に広げるクリエイティブなネットワークを活かし、ある時は世界を股に掛けるブランドやアーティストと、またある時は既存の枠に捉われない新進気鋭の才能と。シーズンごとに主役となるパートナーを迎え入れ、変幻自在にその姿を変えていく。 

監修者が変わることで表現の彩りは変化しても、その根底には常に、最高品質の素材を最も輝かせるための情熱が息づいている。 

5月6日までのステファノ氏による「緻密なパズル」を堪能したあと、次はこの場所でどんな新しい「交差」が生まれるのか。

訪れるたびに私たちの食への価値観を更新してくれるKŌSAは、まさに京都の食文化における、終わりのない旅の出発点であった。

取材協力:エースホテル京都 3階「KŌSA」

所在地:京都府京都市中京区車屋町245-2 新風館内

電話番号:075-229-9005

営業時間:

月曜~日曜 11:30~15:00 (LO 14:30) / Lunch     

月曜~日曜 17:30~22:00  / Dinner (LO 21:30)

予約:https://www.tablecheck.com/shops/kosa-acehotelkyoto/reserve