[佐藤ひと美のスイーツレポート370]コンビニスイーツの聖域を科学する。ファミリーマートが仕掛けるスイーツ戦略《シュークリーム進化論》――「定番の再定義」と「食感工学」が導くコンビニ流通の未来

コンビニ各社が独自のブランド戦略で個性を競い合う中、ファミリーマートは創立45周年を翌年に控えた2026年度、基幹カテゴリーの再構築という戦略的な一手を打ち出しました。

2026年度のスイーツ戦略方針を説明する株式会社ファミリーマートの鈴木崇義氏。物価高騰による「失敗したくない」消費者心理を読み解き 、19年連続人気No.1カテゴリーであるシュークリームを戦略の柱に据えた背景を詳細に解説した。(株式会社ファミリーマート 大会議室にて撮影) 

今回の「絶品シュークリーム大集(シュー)合!」キャンペーンは、物価高騰に伴う消費者心理の変容を緻密に読み解き、定番商品へ最新の製法技術を投入した「マーケティングと技術の結晶」と言えます。本キャンペーンの核心にある、驚くべき情報概要とその戦略的深層を独自の視点で解き明かします。

■1. キャンペーンの骨子:45周年のスローガンを体現する「4つの絶品」

2026年5月12日(火)より全国約16,400店で開始される本施策は、同社の新スローガン「いちばんチャレンジ」を象徴するプロジェクトです。

最大の注目は、ファミリーマートのデザートカテゴリーにおいて、19年連続で市場シェアトップクラス、かつ不動の自社売上No.1を誇る「シュークリーム」ジャンルの全面刷新にあります。

今回のキャンペーンは、単なるラインアップ追加に留まらず、長年愛されてきた「王道」2品のリニューアルと、開発に半年以上を費やした「新食感」2品を同時展開することで、既存顧客のロイヤリティ向上と新規層の獲得を同時に狙う多角的な布陣となっています。

・王道の「深化」: 売上No.1の「ダブルシュー」とNo.2の「濃厚カスタードシュー」をリニューアル。膨らみの限界に挑む配合変更や、バニラ原料の厳選など、専門店に比肩するクオリティへのブラッシュアップを敢行しています。

・新食感の「開拓」: 「ザクほろ」「もちむに」という、従来のシュークリームの概念を覆すテクスチャーを提案。これまでのクッキーシューとは一線を画す「時間経過に負けない食感」を、科学的なアプローチで実現しました。

同社は「おいしい・おトク・わくわく・革新的」といった8つのキーワードを土台に、全方位から「いちばんおいしい」への挑戦を可視化。スイーツ界のトレンドセッターとしての地位を、再び強固なものにしようとしています。

■2. 戦略の核心:なぜ今、王道の「再定義」なのか

ファミリーマートが2026年度のテーマに据えたのは、極めて実利的な「わかりやすさ」です。その背景には、単なる商品開発の枠を超えた、冷徹なまでの市場洞察が存在します。

「ハズさない贅沢」へのニーズ:失敗を嫌う消費者心理

止まらない物価高の影響で、生活者の買い物行動には「保守化」の波が押し寄せています。最新の調査では、消費者の64.0%が「多少価格が高くてもハズれない(失敗しない)選択をしたい」と回答。
その中で、19年連続で人気No.1を誇るシュークリームは、味の想像がつきやすく、購入に伴う「未経験ジャンルへのリスク」が最も低いカテゴリーです。ファミリーマートはこの「安心感」を武器に、消費者の財布の紐を緩める戦略を採りました。

カテゴリーの優位性:絶対王者の進化による市場防衛

・自社TOP2の再育成: 売上TOP2を独占する「ダブルシュー」と「濃厚カスタードシュー」を敢えてリニューアルしたのは、既存の強い集客基盤をさらに強化するためとのこと。

・「定番の進化」という信頼: 誰もが知る定番に「最新技術による食感」という付加価値を掛け合わせることで、「いつもの美味しさ」への安心感と、「新しい出会い」へのワクワク感を同時に提供。これにより、他社との差別化を鮮明にし、スイーツカテゴリー全体の底上げを図っています。

■3. 技術革新:コスト高を突破する「食感工学」の導入

原材料費の上昇という全社共通の課題に対し、同社は「製法による価値の最大化」という回答を出しました。

① 「膨らませる配合」によるボリューム最大化(ダブルシュー)

単に生地量を増やすのではなく、生地の配合自体を見直すことで「より大きく膨らむ」技術を導入。男性ファンが多いこの商品は「一個での満足感」が鍵。ホイップとカスタードの比率を維持したままボリュームを増したことで、重視した「たっぷりとした満足感」を維持しながら、税込198円というコスパの良さがさらに際立つ商品に。

② 糖アルコールと複数澱粉によるテクスチャー・デザイン(新食感2品)

・ザクほろシュー(チョコクリーム): 糖アルコールを採用したクッキー生地を開発。表面に特殊なコーティングを施すことで、工場出荷から時間が経過しても損なわれない「持続するザクザク感」を実現。


・もちむにシュー(ミルククリーム): 複数の澱粉を黄金比で組み合わせ、シュークリームらしい「ふっくらした外見」と、相反する要素である「中毒性のあるもちむに弾力」を両立させた。

③ 「1.5倍のバニラ」による官能評価の強化(濃厚カスタードシュー)

マダガスカル産バニラビーンズを従来比1.5倍に増量。香りの奥行きを強化するだけでなく、視覚的にもバニラの粒を際立たせることで、一口目から「濃厚さ」を直感的に想起させる設計となっている。

■4. ターゲット層を緻密に網羅する「4つの布陣」

購入層のデータに基づき、隙のないポートフォリオが構築されています。

クリームたっぷり!ダブルシュー → 主要ターゲットは【40〜50代男性】 ボリュームアップによる「たっぷり感」の最大化

バニラたっぷり!濃厚カスタードシュー → 主要ターゲットは【50〜60代女性】 バニラ増量によるリッチな余韻と濃厚な卵感

ザクほろシュー(チョコクリーム) → 主要ターゲットは【20〜30代男女】 持続する「ザクほろ」食感とチョコの満足感

もちむにシュー(ミルククリーム) → 主要ターゲットは【40〜50代女性】 見た目と食感のギャップによる新しい体験価値

■5. 流通の未来を拓く「前年比110%」の数値目標

ファミリーマートは本キャンペーンを起爆剤に、デザートカテゴリー全体で前年比110%の売上目標を掲げています。

・再来店を促すLTV設計: 「ファミマルSweets」全品に使える30円引きレシートクーポンを配布 。新規獲得だけでなく、カテゴリー内での回遊とリピート率の向上を狙う。

・多角的なプロモーション: 吉田鋼太郎さん・八木莉可子さん出演の新TVCMと、SNSでの1万名規模の無料クーポン配布を連動。マスとデジタルの両面から顧客接点を最大化。

今回のファミリーマートの戦略は、「守り(定番の品質向上)と攻め(サイエンスによる新食感)の高度な融合」という「本気」を感じるラインナップです。単なるリニューアルに留まらず、「食感の対比(ザクザク対もちもち)」というトレンドをコンビニの製造ラインで再現した技術力には脱帽。原材料高を単なる「量」ではなく「技術」でカバーし、付加価値へと昇華させる姿勢は、今後の食品流通における一つの解法となるでしょう。 2026年5月12日、コンビニスイーツの「基準」がまた一つアップデート。お近くのファミマで「自分好みの食感」を探してみてはいかがでしょうか。