※安孫子宏輔さんのCandy Boy卒業に伴い、“安孫子宏輔(Candy Boy)の「あびこ菓子」”を再編集して公開しております。
安孫子宏輔さんのスイーツ連載「あびこ菓子」。おすすめスイーツを実食して、エッセイ風食レポに挑戦するSeason2! 今の季節、人々を最も熱狂させるスイーツといえばチョコレート。今回は「ル ショコラ ドゥ アッシュ」のボンボン・ショコラを紹介します。
第26回 安孫子さん「ボンボン・ショコラ」をいただく
バレンタインデー。
それは愛の聖人である聖ヴァレンティヌスに由来する愛の記念日。その日は世界中で愛が伝えられるが、日本のバレンタインデーといえば欠かせないのがチョコレートである。
バレンタインデーに女性が愛を込めて男性にチョコレートを渡す。
日本にこの風習が根付いて以来、この日にどれだけの数のドラマが生まれてきた事だろう。
この日、日本男児はみなチョコレートを求める。それはチョコレートの中に愛を見るからだ。大和撫子の想いが込められたその一粒が、男達には具現した愛そのものに思えるのだ。
人は皆、愛を求めている。
今年のバレンタインデーもきっと、数々のドラマが生まれる事だろう。
今回はそんな愛の記念日・バレンタインデーを彩るに相応しい『ル ショコラ ドゥ アッシュのボンボン・ショコラ』をいただくことにする。
ル ショコラ ドゥ アッシュのショーケースの中に綺麗に並ぶ一粒一粒のショコラは宝石の様に美しい。美術展を回る様に小一時間眺めていたくなるので是非店舗に足を運んでみていただきたい。
今回いただくのは、サロン・デュ・ショコラ・パリにて発表されるC.C.C.(Club des Croqueurs de Chocolat)= クラブ・デ・クロクール・ドゥ・ショコラによるショコラ品評会の受賞作を含む、人気作の詰め合わせ『アッシュセレクション』の8粒入り。
高級感のある箱を開け、早速一粒といきたいところだが、今回はボンボン・ショコラをより深く楽しむ為にある物を用意した。
その名も「ワイルドカカオ ショコラセパレーター」。
これはワインで言うソムリエナイフの様な、ショコラをカットする為に作られたショコラ専用のツールだ。
素材へのリスペクトを感じとれるカカオの実を模した本体に、ショコラをカットしやすい様に設計された刃が収納されている。
これは、高級なショコラを一口で食べてしまうのがもったいない、その場にいる人と一粒をシェアして感想を共有したいと、常々思っていた僕にとって嬉しい道具なのである。
初めに、苺を使ったショコラ『フレーズ』を切り分けた。
次の瞬間「なるほど」と思わず笑みがこぼれる。
セパレーターを持つ手に伝わるショコラの滑らかさ。
ふわりと鼻に伝わるショコラと苺の香り。
二層のピンクと茶色のコントラストが美しい断面図。
口にする前に「触覚」「嗅覚」「視覚」でショコラを楽しむ。
その一粒に込められた、パティシエのこだわりを五感でより細かく受け取ることができるのだ。
切り分けたショコラを口に運ぶ。
香りで高まった期待感を優に超えてくる苺とショコラの調和のとれた味わい。
このクオリティのショコラがあと7種類も続くのかと考えると、とても贅沢な一箱に思えてくる。
全てのショコラについて感想を語りたいところだが、特に印象深かったのが『山椒』と『アプリコットと梅』だ。
口に入れた瞬間、スイーツとしては驚きのある山椒や塩といった素材の存在を鮮明に感じるのに、あくまでそれがショコラとしての『美味しさ』に昇華されていた。
「世界中のカカオの香りや味わいを日本の素材、文化と融合させ一粒のショコラに込め日本から世界に発信する」というショコラトリーの理念を全身で理解することができた。
板チョコレートが一枚100円程度で手に入ると考えると、一粒数百円するボンボン・ショコラは高級と言えるだろう。質量で言えば板チョコレートの方が多いかもしれない。
しかし、このこだわりのボンボン・ショコラは一粒に込められた情報量が圧倒的に多いのだ。産地、味わい、使用したカカオ、農園、素材など、一粒に込められたドラマを一つ一つ紐解くと、一粒で小一時間は楽しめるかもしれない。
それを成せるのはやはりショコラティエのショコラへの情熱であり、愛なのであろう。
なるほど、やはり人はチョコレートの中に愛を見出し、愛を求めているのかもしれない。
だから人は美味しいチョコレートを求めるのだ。
※安孫子宏輔さんは2022年12月31日をもって、Candy Boyを卒業しております。