[佐藤ひと美のスイーツレポート341]百年の時を超えて、パフェの原点を「リメイク」する。赤坂プリンスクラシックハウス×Remake easy、伝統と革新の融合を読み解く

2025年10月20日(月)から12月3日(水)までの期間限定で、東京都指定有形文化財である赤坂プリンスクラシックハウスにて、完全会員制パフェバー「Remake easy」との特別なコラボレーションコースの提供が開始!

ご予約URL: https://www.tablecheck.com/shops/apc/reserve?menu_lists=68de34d8070fd43607f7c759

単に豪華なデザートを提供するという表面的な次元に留まらないこの企画。提供されるパフェは、約100年の時を超えた歴史的・哲学的背景を纏い、パティシエの高度な技術と知性が注ぎ込まれた、食べるアート作品としての価値を提示しています。

1930年(昭和5年)築の歴史的洋館の重厚な空気と、「百年前のクラシックデザートをリメイクする」という「Remake easy」の確固たる哲学が、緻密に計算され尽くしたパフェを通じて融合する、スイーツ史における「親和性」を具現化するに至りました。

空間とコンセプトの完璧な「親和性」

今回のコラボレーションの真髄は、会場である赤坂プリンスクラシックハウスが持つ歴史的背景と、「Remake easy」のブランドコンセプトが驚くほど高い親和性を持っている点にあります。

①「Remake easy」の名の由来と時代背景

「Remake easy」のCEO兼プロデューサーである林 巨樹氏は、ブランド名について以下の由来を語っています。

Remake:約100年前のフランスで誕生したパフェを現代に再構築(リメイク)する。ここでいうパフェの起源は、19世紀にフランスの高級レストランで供された、アイスクリームにフルーツやゼリー、クリームをトッピングした「パルフェ」に遡ります。このパルフェはヨーロッパを経由して日本へも伝来しましたが、当初は外国文化の一部として高級料理の域を出ず、やがて独自の進化を遂げて大衆化に至ります。林氏の哲学は、この伝統的なパルフェの再構築に焦点を当てています。

easy:約100年前のアメリカ禁酒法時代に、秘密のお酒の場が「スピークイージー(Speakeasy)」と呼ばれていたことに由来し、コロナ禍で「おいしいものを食べたい人たちが集まれる秘密の隠れ家」としてお店をオープンした経緯を重ねる。

つまり、ブランドの核は「約1世紀前」の文化や事象を起点としています。

  

②洋館が持つ「時」の呼応

一方、会場の赤坂プリンスクラシックハウスは、このコンセプトに呼応するように、1930年(昭和5年)に建てられました。

この洋館はチューダー様式の優美な建築として知られ、かつては赤坂プリンスホテル旧館として多くの賓客を迎えた歴史を持ちます。現在は東京都指定有形文化財として保存されており、磨き込まれた木材や深みのある調度品が、訪れる人を時代を超えた静謐な世界へと誘います。

館内には、1950年に開業して以来長く愛され続けた伝統の「バー ナポレオン」があり、ディナーコースでこのバーカウンターを使用。

林氏は、このクラシック建築が持つ歴史的背景と「リメイク」というブランド哲学の間に「親和性」を見出したことが、今回の画期的な初コラボレーションの誕生に繋がったと述べている。

100年の時空をまたぐ時代背景が共鳴し合う空間で、その時代に生まれたクラシックデザートを再構築するーーこの哲学こそが、本企画の土台を支えているのではないだろうか。

特に、ディナーコースで体験するバーカウンターでのパフェの仕上げは、単なる演出ではありません。これは「Remake easy」のコンセプトである禁酒法時代(Speakeasy)のリメイクを体現し、洋館の格調高き雰囲気を五感で味わう、まさにストーリーテリングの核だと、実際に体験して感じました。

パフェの起源と進化:林巨樹氏の知見から「再定義」する

Remake easyのCEO兼プロデューサーである林 巨樹氏は、パフェに対する深い理解に基づき、その定義を明確に区分している。

林氏の知見によれば、パフェの起源は「メレンゲや生クリーム、ムース、アイスクリームなど、異なる温度帯の空気をひとまとめにしたデザート」にあり、その空気感と食感の楽しさにこそ、パルフェ(完璧)たる所以があったという。

その上で、戦後の日本の喫茶店文化で広まった、コーンフレークやウエハースが盛り付けられるスタイルについては、「戦後の日本で独自の発展を遂げた日本独自のスイーツ」であると明確に位置づけている。

この起源への回帰と、日本独自の進化への敬意こそが、百年前のクラシックデザートを現代的に再構築する「Remake easy」の根幹を成す哲学と言えよう。

A. ランチパフェ:ピスタチオとサツマイモとほうじ茶のブリュレパフェ(¥6,000コース内)

このパフェのテーマは「100年前の冷蔵庫がない時代のポピュラーなデザート」であるブリュレと、日本人に馴染み深い焼き芋の融合です。

「ブリュレの現代的解釈」

表面をキャラメリゼした「シブースト」がブリュレの役割を担います。単なるカスタードではなく、ムース状のシブーストを使うことで、焦がし砂糖の食感(ブリュレ)と、パフェの原点である「空気」の要素を両立させています。

「限界への挑戦:ピスタチオアイス」

林氏が「これ以上ピスタチオを入れられない限界」に挑んだ自家製アイスクリームが採用されています。油分であるピスタチオを極限まで入れることで、アイスクリームの水分量をギリギリまで調整する高度な製菓技術が要求される。その濃密な風味は唯一無二!

「日本の秋の味覚の昇華」

サツマイモは、低温調理によりデンプンの甘さを最大限に引き出し、マリネされています。濃厚なピスタチオに対し、りんごの酸味、ほうじ茶とチャイ・シナモンのメレンゲが香りのレイヤーを加え、複雑で奥深い「和」の季節感を演出しています。

▼ランチパフェ(上から)

・ほうじ茶のチュイル   :ほうじ茶薫るサクサクとしたもの

・ピスタチオアイス    :remakeeasy仕込みのピスタチオふんだんに使ったアイス 

・シブースト       :カスタードクリームとメレンゲを合わせたムース。表面をキャラメリゼ。

・さつまいものマリネ   :低温調理したさつまいも

・さつまいも味のアーモンド生地:焼き芋を思わせるよう表面を炙ってあります

・ピスタチオ

・ほうじ茶のメレンゲ   :チャイとシナモンとほうじ茶を合わせたメレンゲ、サクサク食感

・クレームレジェ     :カスタードクリームと生クリームを合わせた濃厚かつ軽い口当たりのクリーム

・クレムーピスターシュ  :なめらか食感のピスタチオのムース

・クランブル       :サクサクとしたクッキー

・りんごとメープルのジュレ:りんごの甘酸っぱさとメープル薫るジュレ

・ピスタチオソース    :ホワイトチョコとピスタチオを合わせた濃厚なソース

ランチコース:6,000円(税込+サ別途10%、ドリンク別) / ペアリングドリンク(ノンアルコール 1,300円、税込+サ別 10%)

茸のブリオッシュトースト、龍馬カツオ 紅くるりグリビッシュといった前菜に続き、「ピスタチオとサツマイモとほうじ茶のブリュレバフェ」をご用意。

  

B. ディナーパフェ:マダガスカルカカオとブランデー“ナポレオン”のBean to Barチョコレートパフェ(¥10,000コース内)

バー ナポレオンにオマージュを捧げ、「チョコレートとブランデーの相性」を徹底的に探求した、知性と技術に裏打ちされた一皿です。

「Bean to Barの徹底した制御」

林氏自らがマダガスカル産カカオ豆を仕入れ、焙煎・加工まで手掛けるオリジナルBean to Barチョコレートを贅沢に使用。通常、高温で失われがちなカカオ本来のフルーティーな風味を最大限に残すため、焙煎温度を緻密にコントロールしています。

「ナポレオンが愛した香りの探究」

コニャック「ナポレオン」に加え、ナポレオンが愛したとされるマンダリンナポレオンリキュールの香りを抽出し、旬の洋梨とマリアージュ。さらに、洋梨の皮からも香りを抽出しブランデーと合わせるという手法は、素材の持つ香りのポテンシャルを極限まで引き出す、パティシエの知性と感性の結晶です。

「カカオの多層的表現」

クレムーショコラ(コニャックナポレオンとカカオのムース)、シャンティショコラ(濃厚クリーム)、パンナコッタショコラなど、カカオの風味を異なる温度帯、異なる食感でグラス内に多層的に構成。これにより、一口ごとに「フルーティーさ」「芳醇さ」「苦味」といったカカオの持つ多様な表情が浮かび上がります。

▼ディナーパフェ(上から)

・カカオメレンゲ     :カカオの風味薫るメレンゲ

・マダガスカルカカオ(削り)

・マダガスカルカカオ(ニブ)

・シャンティショコラ   :マダガスカルカカオをふんだんに使用した濃厚なクリーム

・バニラアイス

・シャンティショコラ

・カカオメレンゲ

・洋梨のコンポート    :低温調理した洋梨のコンポート

・洋梨とマンダリンナポレオンのジュレ:マンダリンナポレオンをマリネし低温調理した洋梨のジュレ

・クレームレジェ     :カスタードクリームと生クリームを合わせた濃厚かつ軽い口当たりのクリーム

・クレムーショコラ    :コニャックナポレオンとマダガスカルカカオを合わせた口溶けのいいムース

・クランブルショコラ   :サクサク食感、マダガスカルカカオニブ入り

・パンナコッタショコラ  :マダガスカルカカオを使った滑らかな口当たりのパンナコッタ

・ショコラソース     :マダガスカルカカオと牛乳で合わせたシンプルなソース

ディナーコース:10,000円(税込+サ別途10%、ドリンク別) / ペアリングドリンク(ノンアルコール 1,300円、税込+サ別 10%)

鴨とフォアグラのオレンジ仕立て、甘海老とトマトのレムラード、オニオングラタンスープなどの前菜に続き、「マダガスカルカカオとブランデー”ナポレオン”のビーントゥバーチョコレートバフェ」をご提供。

濃厚なカカオと芳醇なブランデーが調和する、深みある一皿に仕上げています。

  

スイーツ業界に問う「パフェの現在地」

今回のコラボレーションパフェは、単なる「おいしいスイーツ」という枠組みを遥かに超越し、食べることで歴史と哲学を体験するという次元に到達しています。

「Remake easy」林巨樹氏が創造したパフェは、伝統的な建築の歴史、約100年前の社会背景、そしてパティシエとしての高度な製菓技術という、複雑な要素をグラスという限られた空間にすべて集約し、多層的な物語を織り上げている。

これは、林氏自身が定義する「日本独自のスイーツ」であるパフェが、クラシックの再解釈と最新技術を通じて、世界に向けて新たな価値と知性を発信する、文化的なマイルストーンとなり得ることを雄弁に示しています。

本企画は、現代のスイーツ業界において、パフェが担うべき芸術性と哲学の深さを問いかける、極めて重要な試みなのです。

私も、このパフェを構成する一粒一滴に込められた作り手の知性、素材への敬意、そして時代へのオマージュを噛みしめる度、全身の細胞が呼応するのを感じました。

歴史を味わうという稀有な美食体験は、まさに至福の恩寵。

この秋、この「神話」を目撃し、その奥深い味わいを語り継ぐことができる幸運を、心から分かち合いたいと思います。

Remake easy × La Maison Kioi 【実施概要】

提供期間:2025年10月20日(月)~12月3日(水)

会場:赤坂プリンスクラシックハウス

予約:公式サイトより完全予約制

コース料金:

・ランチパフェコース:6,000円(税込・サ別 10%、ドリンク別)

・ディナーパフェコース:10,000円(税・サ別 10%、ドリンク別)