|特別企画|新型コロナウイルス感染拡大。スイーツ店はどう立ち向かう? ~第2回 株式会社マルガー代表・柴野大造氏 緊急寄稿 自分たちに今できること~

新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、スイーツ店も休業や営業縮小などを余儀なくされている。収束の兆しが見えないなか、感染リスクを減らしながら、いかに事業を継続させるかが大きな課題となっている今、経営者として世界ジェラート大使として思うこととは? 株式会社マルガー代表取締役社長・柴野大造氏が緊急寄稿。

柴野大造 プロフィール

1975年石川県能登町生まれ。東京農業大学卒業後、家業の酪農に就農。2000年、地元能登町に北陸初の牧場直営ジェラートショップ「マルガージェラート能登本店」をオープン。2015年、ジェラートマエストロコンテストに優勝し、ジェラート日本チャンピオンに輝く。2016年、アジア人初の世界ジェラート大使(本部ローマ)に就任。2017年にアジア人初のジェラート世界チャンピオンとなる。現在は、ジェラートイリュージョンのパフォーマンス、ジェラートショップの監修・コンサルティング、プロデュースなど全国各地で精力的に活動している。


お店の現状と新型コロナ対策

現在、マルガージェラートでは営業時間を11:00~17:00と時短営業に加え(本来この時期の営業時間は11:00~18:00)、お子様をお持ちの主婦のアルバイトの方々に自宅待機などしてもらうなどシフトは役員と正社員中心の対応になっています。

来店されるお客様の衛生意識も非常に高まっているなと感じています。店頭には数箇所にアルコールスプレーを設置しておりますが、ほぼ全てのお客様がご利用になられます。

店内飲食スペース(10 席程度)は撤廃し、テイクアウトのみの対応をしております。野々市店や能登本店は郊外店ということもあり自家用車でご来店されるお客様がほとんどです。

皆さんご自分の車の中で食べてゴミは外に設置してあるゴミ箱に捨てていくといった楽しみ方にシフトしています。店内の滞在時間は非常に短いですね。

新型コロナの影響としては、商品卸先やプロデュース店舗も休業のお店が多くなり、デパート催事・ゴールデンウイークのイベントも全てキャンセルの状態です。ゴールデンウイーク期間中のイベントキャンセル分だけで昨年比で数千万円の売上ダウンとなっています。

ただ、そのような中でも、お取り寄せ需要は日に日に高まっており、唯一通販サイトの売上は伸びています。またお店にご来店されるお客様が宅配注文される件数も多いです。

店頭売上の減少は今まで通りの対応ですと歯止めがかからないと考え、お持ち帰り用テイクアウト500mlボックス・蓋付きテイクアウトカップをご用意しています。また持ち帰り用カップの種類を増やすなどして魅力ある商品ラインナップを揃えるようにしています。また、ゴールデンウイーク期間中は人の流れがスーパーに傾くと考え、近隣スーパー前に自前の移動販売車を設置して販売することになっています。

店内ではビニール仕切りを用意し飛沫による感染リスクを軽減。入口ドア・天窓も開放して、店内の空気循環を良くするなどの対策をとっている。

ジェラートの本場・イタリアでは……

日本と同じように大変な状況下のイタリアでは国内におおよそ25,000軒以上のジェラテリアがあり(日本は1,000軒程度とされている)、ジェラート・焼菓子デリバリーで家まで配達をしたり、ジェラートを詰めて店頭でテイクアウトボックスを販売したりするなど対応しています。しかしこの状況があと数ケ月続くと廃業・倒産が相次ぐだろうと予測されています。

日本以上にイタリアは家族経営の中小店舗が多く、むしろ日本の地方都市に数多くある大型商業施設が少なく、そのような小売店の集合体がイタリアの魅力の一つとなっていました。

それらのバール(エスプレッソや菓子・コンビニのような役割)やジェラテリアなどの小売店経営の体力はもはやギリギリのラインに達しています。

あの陽気なイタリア人からも悲痛なメッセージが何通も来ています。イタリアはコロナ禍以前から不況と言われておりモノが売れない状況が続いていました。そんな中でもオシャレなイタリア人が洋服を購入するのを我慢してまでも心から楽しみにしていたのがジェラート、カフェ、ピザでした。

その不況下でもこのようなファストフード業界は右肩上がりだったのです。

そんなイタリア人の唯一の楽しみも奪われ、今はまさにイタリア食文化崩壊の危機に瀕する状況と言えます。

今年は開催予定だったジェラートフェスティバルワールドマスターズ日本予選も再度延期になり、最終日程が決められずにいます(2021年イタリア開催のジェラート大会・僕もこの大会の日本大会公式アンバサダーを務めており国内選考審査員です)。

この日本のジェラート職人たちにとって最も重要で価値ある国の代表を決める大会スケジュールが決められないというのは、彼ら職人たちにとってオリンピック選手同様に準備とモチベーション維持が非常に難しくなっています。

僕自身は来年ミラノ開催のFIPGC世界洋菓子コンクールミラノ大会の日本代表監督が決まっており、選手たちと作品の準備・練習をしていかなければならないのですが今は移動して集まること自体難しく大会自体も開催が危ぶまれているような状況です。

世界ジェラート大使・騎士パーティーでイタリア職人仲間と。

経営者、スイーツを愛する全ての人へ……

僕もこのような状況下ではどのような対応が適切で正しいのかは正直今もわかりませんし、皆さんと同様に毎日メディアから出てくる情報に心を痛め仕事に生活に試行錯誤の繰り返しです。

そんな未曾有の状況下で問われているのは我々の想像力なのだと感じています。

流れてくる多くの情報を全て鵜呑みにして振り回されるのではなく、エビデンスが取れているのかその情報の出処が本当に信用に値するものなのか。こちら側から発信する情報もその先にどういった人々がいて受け取った人がどう感じるのだろうか。

マスク不足が未だ解消されない中でようやくそれを見つけた時に陳列棚のモノを買い占めてしまうのか、その先に必要としている多くの人を想像して他の行動をとるのか。想像力を巡らし相手の立場に立ったモノの考え方を行動に移すこと、非常に難しいですが率先して取り組んでいかなければならないことです。

全国のジェラテリアもまた営業自粛と時短営業で対応は分かれており経営は苦境に立たされています。

内部留保が無く日々の売上で操業していたジェラート製造業・小売店は仮に資金調達が出来たとしても以前の状態近くまで戻すには多くの時間と労力を要することだと思います。

新型コロナウイルスによる商売への影響が大きい場合、各種補助金を受けることができます。資金繰りに関しては日本政策金融公庫、商工組合中央金庫などの全国的なものから、地域ごとのものまで、様々なものがあります。事業者の方々はどの融資が有利か検討してみてください。

また資金繰りは現時点だけでなく、秋冬の運転資金まで考慮して融資を考えた方が良さそうです。補助金申し込みに窓口に行くと現在は大変込み合い、長蛇の列で一日かかることも多々あるようです。その場合に、電話で問い合わせを行い、申し込み用紙を入手、ネットかFAXで送付するとスムーズなようです。

そんな中でも最近特に多い依頼が、“おうちスイーツ(料理)”という企画です。ご自宅で過ごすことが多いこの期間に各分野の食のプロフェッショナルが簡単レシピを公開してリレーしていく企画。すでにSNSやテレビ番組からもこのような企画をいただくことが多くなってきており僕も積極的にお受けしています。

“自分たちに今できること”をしっかり考え行動していくことで少しでも皆さんがご自宅にいる時間が有意義になればという思いでいます。

しかしこのような見通しが立たないこのような未来でも、ある一定の計画は立てて会社運営は継続していかなければならないので何パターンかの売上予測に基づいた経営計画は立てて準備にあたっています。実は来期移転リニューアルを予定していた直営店舗移設計画も見直しを余儀なくさせられました。

まずは会社を存続させて事業を継続していくことを第一に考え対応していこうと思います。

皮肉にも今回のコロナ禍で地球環境が劇的に改善しているとの報告もあります。世界中の人々が経済活動を自粛していることが各地域の水質・大気汚染の改善に繋がっていると言います。

仕事とはいえ近年、一年の半分以上を県外・海外で過ごしていた僕にとっても家族との時間が増え、5歳の息子の目をみはるような日々の成長を一番近くで感じられる幸せと喜びは何ものにも代えがたいものがあります。

それはまるで根本的なところから”物事の価値観の変容”をこちら側に迫ってきているように感じます。毎日の当たり前が実はかけがえのない大切なものだったということは失って初めて気付かされることがあります。

僕にとってはジェラートの世界タイトルを目指して何年も走ってきた結果失った故郷の能登の牧場です(昨年NHKの番組でも特集していただきました)。

なにか・誰かの傘の下ではなく個々がおのおので独自の塔を立てて自律していく時代。我々は実はいま、好むと好まざるとに関わらずそんな時代の大きな境目に立っているのかも知れません。

“人間は自然に生かされている” 僕が生まれ育った能登の大自然と酪農家だった父から学んだ考え方です。

プロテイン、カゼイン、塩分、ミネラル、ラクトースがバランス良く配合された栄養価の高い完全栄養食品であるアルチザンジェラートは当初貴族の食べ物でした。このジェラートはもっと一般向けに発展させなければならないと偉大な先輩マエストロ達は思ったのです。

樹齢100年の偉大な木からは美味しい果実が育つように偉大なマエストロ達からそのスピリットを受け継いだ子供達は国を超えて素晴らしいマエストロに育っていきます。イタリア人も日本人も同じ人間でそこに何の隔たりもありません。

コンクールで勝つ事はそんなに大切なことではないのです。そこに行き参加してそこに存在する事が最も大切なのです。

僕は10年間イタリアに通い続けました。

たくさんの国際コンテストに参加したけれどもなかなか勝てずに若い僕はいつも下を向いて帰って行きました。でも負けた時にいつも何故負けたのだろうと、そこから必ず何か学び昨日より素敵な今日1日にしようと前を見つめ勉強して空を見上げました。

あの時の若芽が空に向かってぐんぐん育つようにその時の心の成長が今の僕の根幹を支えてくれているのです。

“ジェラートは単なる食べ物ではない。魂の食べ物だ”

お腹が減った時は食事がしたいと思います。
ではジェラートの存在意義とは何か。

それはあなたの精神を支える心のエネルギー補給のためにあなたに与えられた特別な権利なのです。食べた瞬間、お腹の下の方から湧き上がってくるこのエネルギッシュな力は何でしょうか。

偉大なマエストロ達は自然食品をジェラートに変化させてアルチザン(イタリアの伝統的な製法)にしていきました。そうやって変化させた味はあなたの心の中の魂にとても良い影響を与えるでしょう。

それは愛とパッションとファンタジーが融合された自然界と神様からの贈り物なのです。

我々ジェラートマエストロはいつも自分を1番愛してくれている人を想ってジェラートを作っているのです。パッション(情熱)、アモーレ(愛)、ファンタジー(想像力)がなければ生きている意味がありません。

……いつかまたこの状況が落ち着いたら石川県の僕のお店に是非出来たての”魂の食品 ジェラート”を食べに来てください。その時はあなたの心の琴線に触れる甘美な体験の時間をお約束します。

それまで僕はさらに科学知識を深め感性を磨いて味の追求をしていきます。味の創造は食材と時間の対話です。

ジェラートの味一口で地域の味がたっぷりと広がるように環境と人によって唯一無二の味が形成されるのです。

“Gelato è l’amore ジェラートとは愛である” この先に光の出口があることを信じて……。

2020年4月28日
ジェラート職人 柴野大造


マルガージェラート能登本店
石川県鳳珠郡能登町字瑞穂163-1
営業時間:11:00~17:00(時短)
※通常は[3月~10月]11:00~18:00(無休)、[11月〜2月]11:00〜17:00(水・年末年始は休業)
※都合により早めに閉める場合があります。
  

マルガージェラート野々市店
石川県野々市市野代1-20-101
営業時間:11:00~17:00(時短)
定休日:不定休

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