安孫子宏輔の「あびこ菓子」 〜幸せって食べたら甘いと思う。〜 #008 あんみつ

※安孫子宏輔さんのCandy Boy卒業に伴い、“安孫子宏輔(Candy Boy)の「あびこ菓子」”を再編集して公開しております。


新型コロナウイルスによりさまざまな業種で大きな影響が出ています。飲食店も勿論例外ではありません。そこで安孫子さんが スイーツコンシェルジュのお店のスイーツを食べて応援! 今回は東京・上野にある 「みはし」のあんみつなどを実食。写真多め、ドラマチックエッセイスタイルで紹介します! みなさんもぜひ食べて応援してくださいね。

第8回 安孫子さんとあんみつ

今回取り寄せたのは、若桃あんみつ、杏あんみつ、豆かん、ところてんの4種類。

今回はアラカルトで注文してみました。

杏あんみつ

杏あんみつ 530円(税込)

僕の最初の夢はなんだっただろう。

一口食べて、そんなことを考えた。

正義のヒーローでも無く、大金持ちでもなく、そのもっと前。記憶の始まり近くのその頃に初めて願った夢はおそらく

「美味しいものだけをいっぱい食べたい。」

これだったと思う。

そして今、僕の眼前にその夢が形になっていた。

弾力がなく口の中でほろほろと崩れる食感が癖になる寒天、唇よりも柔らかなぎゅうひ、みんな大好きみかんのシロップ漬け、ほんのりとした塩っけが周りの甘味をより一層引き立てる赤えんどう豆、そこに餡子をのせたっぷりの蜜をかける。これはまさに甘いもの好きな日本人の夢である。

しかしこの夢には続きがあったのだ。ここに煮あんずのジューシーな酸味が加わる事で、何度でも新鮮に甘みを体験できる。

すなわち「甘くて美味しいもの」が「甘くてずっと美味しいもの」へと昇華している。

一杯の中にある様々な味わいや食感に僕は飽きる事を忘れ、気がつけばそこにあったのがまるで夢だったかのように器は空になっていた。


若桃あんみつ

かわいい。

鮮やかな緑の、丸々とした若桃はなんと可愛らしいのか。かわいい子揃いのあんみつちゃん達の中でもこの子はとりわけ美人である。器に盛り直すのもまたあんみつの楽しみ方の一つなのかもしれない。どの器が合うかしら、どう盛り付ければ可愛いかしら、キャッキャ、ウフフと楽しむ僕は着せ替え人形で遊ぶのが楽しかったあの頃の1人の女の子に戻っていた。否、女の子だったことはない。

それにしても、100年前の日本にはすでにインスタ映えのスイーツがあったのだ。当時SNSがあったならそれはあんみつの写真で溢れていたことだろう。

若桃あんみつ  560円(税込)
※6月10日ごろまでの期間限定。早めの注文がオススメです。

そんな事を思いながら若桃煮を口に運ぶ。この美味しさはもう説明不要である。日本人が体調を崩したらこれを食べる、むしろこれを食べるために体調を崩すというほどに愛されている桃の缶詰。若桃らしい瑞々しい歯応えがあるそれである。

先程はあんずが酸味を加えて一皿を引き立てていたが、今度はさらに甘さを加えるという罪深い方法で引き立てている。小細工など不要。甘さこそ最強と言わんばかりのその姿にはもはや貫禄すら感じる。

さっきは甘みとして楽しんでいたみかんが今度は一手に酸味を引き受けている。

主となるトッピングでその他のトッピングの役割や味わいが変わるのはあんみつのとても面白いところだ。気づいたらまた器が空になっていた。


豆かん

豆かん 420円(税込)

シンプルイズベスト。それを体現したかのような菓子である。

シンプル故に何も考えずに無心で、単純に味わうことに没頭できる。赤エンドウのポクポクという食感、寒天の歯切れの良い涼やかな食感。その2つが蜜の甘さの中で崩れていくのがなんとも癖になる。聞けばあんみつができる以前はこの形で楽しまれていたのだそう。もしかしたらあの時代の、あの人も食べたかもしれないスイーツ。

どの時代の人も同じようにこの美味しさを感じていたのかな、などと思いを馳せるのもまた一興。あれ、気づいたらなくなっていた。


ところてん

僕はところてんに憧れを持っていたのです。昔好きな漫画でところてんのキャラクターがいて、すごく好きだったけれど僕の育った界隈ではところてんを食べる文化がなくて、知ってはいるけど食べたことがない。そんな少し憧れの食べ物がところてん。名前が好きだよところてん。とは言っても中身は寒天だ。もうすでに三杯もの寒天を食している僕にはなんの感動も発見もないのではないかと不安になる。

蓋を開け、酢醤油と海苔とカラシをつけてパクリ。

ところてん 380円(税込)
※関西風に黒みつに変更可能です。

そして僕はところてんの素晴らしさを知っただった。

ちょうど良い。酢醤油のしょっぱさ、酸っぱさ、カラシの辛さ、それを絶妙に丁度よく味合わせてくれるところてん。自分一人じゃ輝けないかも知れない。しかし彼は誰かと共にあることでその誰かをこれ以上ないほど輝かせ、自らもまた輝くのだ。

切り方を変えるだけでこんなにも食感が変わるのか寒天とは。恐れ入りました。

甘いものの後のしょっぱいもの。これは一つのしあわせの形である。一瞬で食べてしまった。そして気づいた。またあんみつが食べたくなっている自分に。甘いとしょっぱいの幸せのループ、僕はここから抜け出せるのだろうか。



※安孫子宏輔さんは2022年12月31日をもって、Candy Boyを卒業しております。